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久世ツグミ
「……雨!」
汀紫鶴
「夕立だ、濡れていこう……とは言いにくいな。
君の躯が冷えてしまう」
久世ツグミ
「ではタクシーを捉まえませんか?」
久世ツグミ
「今日は私が無理を言って引っ張り出してしまいましたが、お仕事がありますよね」
汀紫鶴
「でもまだ餡蜜を食べてない」
久世ツグミ
「濡れていない時にしましょう? ほら、雨がまた強くなっ……」
汀紫鶴
「……そんな聞き分けの良い子の振りをしないでおくれ」
久世ツグミ
「あ……!」

紫鶴さんが突然、私の腕を強く引いた。

汀紫鶴
「……っ」
久世ツグミ
「紫鶴さ……っ」

きつく抱き竦められ、荒っぽく唇を塞がれる。

少し苛立ったようなこんな口付けは初めてで、
私の足が微かに震えた。

汀紫鶴
「……悠長に雨宿りなんてしていられないな。
僕は今すぐ……この場で君が欲しくて仕方が無い」
久世ツグミ
「ん……っ」
汀紫鶴
「……こんな時は『離れたくない』と
僕にしがみついてくれて良いんだよ」
汀紫鶴
「『私を一晩中離さないで』でもいい」
汀紫鶴
「この間のあれはね、決してからかったわけではないんだよ」
久世ツグミ
「……『あれ』……?」
汀紫鶴
「『奔放で貪欲で残酷で横暴なところ』」
久世ツグミ
「……!?」
汀紫鶴
「君のその真っ直ぐな無邪気さがどれだけ僕を、
僕達男性を翻弄するか気付いていない」
汀紫鶴
「逢うと手放せなくなってしまうから離れていたのに、
あんな殺し文句で誘いに来るなんてどう考えても残酷だろう」
汀紫鶴
「しかもそれを無意識にやってのける。
本当に……───悪女だ」
©2017 IDEA FACTORY
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