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星川翡翠
「そのまま……じっとしていて下さい」

不意に、翡翠が袂の中から何かを取り出した。

久世ツグミ
「え……っ」
星川翡翠
「ささやかですが、僕からの贈り物です」
久世ツグミ
「え? え……」

ちら、と窓を鏡代わりに映して見ると、
可愛らしい撫子の簪が挿さっている。

星川翡翠
「とても良く似合ってますよ」
久世ツグミ
「あ、有難う……あの、でも……どうして?」
星川翡翠
「どうして、と理由を問われると少し困るんですが……」
星川翡翠
「実は……ずっと貴女に新しいリボンを贈りたいなと思っていて」
久世ツグミ
「新しいリボン……」

思わず鸚鵡返しに呟いてしまったのは、
あの時のことが───彼と初めて口付けた時のことが浮かんでしまったからだ。

星川翡翠
「あ、いえあの時のお詫びというわけでは……」
星川翡翠
「いえ少し……あるかな、ただ貴女の髪にどんなリボンが
似合うかなって考えていて、それで……」
星川翡翠
「ただほら、夏祭りに浴衣を着るって意気込んでいたでしょう? 
なので簪でも良いかなって」
久世ツグミ
(意気込んで……やはりそう映っていたのね)

私は夏祭りに誘われた時のことを思い出し、
恥ずかしくなった。

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