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久世ツグミ
「ふふ、あまーい! 綿飴なんて久し振り!」
鷺澤累
「残念、綿飴は『初めて』ではなかったんだ」
久世ツグミ
「そうね。女学校の近くに時々小さな縁日が立ったの。
綿飴はそこで」
久世ツグミ
「ね、累も食べない?」
鷺澤累
「そう? じゃあ、せっかくだから……少し」
久世ツグミ
「!」

綿飴越しに顔が近付き、また心臓が跳ねる。

鷺澤累
「うん、美味しい! そう言えば子供の頃に食べたきりだった」
久世ツグミ
(子供の累……)

一瞬、どんなふうだったか問いそうになって
私ははっと言葉を呑み込む。

久世ツグミ
(亡くなったご両親のことを思い出させてしまうわよね)
鷺澤累
「綿飴って、名前が可愛いよね。『電気飴』って呼び名はどうも物々しくて」
久世ツグミ
「ええ、私もそう思うわ。だから綿飴と呼ぶことにしているの」
鷺澤累
「知ってる? 綿飴って外国での呼び名も色々と面白いんだよ」

そう言って彼は綿飴を一口囓る。

久世ツグミ
「教えて! どんなものがあるの?」
鷺澤累
「まず、これは知ってるかな? 亜米利加(アメリカ)では『Cotton candy』」
久世ツグミ
「それは覚えているわ」
鷺澤累
「でも英吉利(イギリス)だと『Candy floss』
飴の繭、ってところかな」
久世ツグミ
「飴の繭! 素敵な名前ね、確かに言われてみればそんなふうにも見えるわ」
鷺澤累
「独逸(ドイツ)だと『Zuckerwatte』
砂糖の綿って感じかな、これも」

綿飴が少しずつ、少しずつ溶ける。

私達の顔が少しずつ、少しずつ近付く。

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