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						- 白石景之
- (あ……手……)
						- 触れた手が、温かい。
 ずっと触れないようにしていた、ぬくもり。
 肌から伝わる彼女の温度に、間近に迫る色のない瞳に。
 どうしようもなく頭が混乱した。
						- 白石景之
- 「え? え、えっと……」
						- 星野市香
- 「こっちの糸をこう通して……」
						- 白石景之
- 「こ、こう?」
						- 星野市香
- 「はい、それからここを持ったまま……」
						- 白石景之
- 「ああ、こうなるのか。あってる?」
						- 星野市香
- 「はい、そうです。……先生、できるじゃないですか」
						- 『先生』という呼び名に反して、それは子供を褒めるような声色で。
 再び彼女の手が、そっと重なった。
 ……俺を慰めようとしてくれた。
 その気持ちが、温かい指から伝わってくる。
						- 白石景之
- 「……こういう細かい作業は、昔からやらされていたからね」
						- それは主に爆薬の製作だったり毒薬の配合だったり――
 ろくでもない技術に生かされていたけど。
						- 白石景之
- 「料理よりはよっぽど簡単かな」
						- 星野市香
- 「……やっぱりお医者さんって、器用な人が多いんですね」
						- 白石景之
- 「! ……うん。そう、かも」
						- 我ながらひどい嘘をついたものだ。
 人の命を脅かす存在の俺が、人の命を救う存在を騙るなんて。
						- 星野市香
- 「……これができたら、私がもらってもいいですか?」
						- 白石景之
- 「もちろんだよ。おそろいになるね」
						- 星野市香
- 「はい。……ありがとうございます」
						- 表情はほとんど動かないけど、彼女は少し嬉しそうに見えた。
						- 白石景之
- (やっぱり、変わらないな)
						- ――彼女は、彼女のままだ。
						- 白石景之
- (君は、なにも変わってない)