ショートストーリー
EPISODE:God
『旅の前日譚 -神と聖女-』
いずれも信心深く慈愛に満ちた少女たちで、わたしにも敬意を払って接してくれたものだよ。
……それに比べて、当代のジャンヌは……。
*
「コレだもんなぁ……。
不敬だし信仰心がないし粗暴だしで、本当に何がどうして、こうなっちゃったのか…………」
「夢に現れて早々、人を貶すとはいい度胸だこのポンコツ神が」
「いだだだだなになに急に耳引っ張らないで、不敬だよ不敬!!」
「引っ張りやすい耳をしているお前が悪い」
「それはさすがに理不尽じゃない!?」
理不尽なのは修行直後で疲れ果てて眠りについた途端に現れたお前だ。
……エクスラトルを守護する神がこんなポンコツにして胡散臭い男だなんて――民や聖刻の人間が知ったら、どんな顔をするか……。
*
私はエクスラトル17代目のジャンヌ・ダルク。本名は別にあるが、基本的にはジャンヌと呼ばれている。
生まれた時には既に聖女の宿命を定めづけられていた……のだが、この神がなかなか救国せよという宣告を下さないせいで、気づけば時間を持て余したまま24歳になっていた。
私自身、聖女としての立場は複雑故にいつでも辞したいし、辞められるのならば喜んで辞めるが……。
数年に一度起きるリージェネートとの激しい戦や飢饉を前に何もすることを許されないというのも、なかなか苦しい。
だからこそとっとと聖女の立場を捨てて、個人としてエクスラトルという国の力になりたいわけだ。
……何故、この男が救国の宣告を出し渋るのか、まったくわからない。
「はあ、すっかり可愛くなくなっちゃって。
幼い頃はもう少し可愛げがあっ――」
「……あったか?」
「……なかったね。
君、赤子の頃わたしを認識した瞬間からやたら睨みつけてきたし。
でも自分で言うものじゃないと思うよ、女性としても」
「私を一番女扱いしないお前にだけは言われたくない。
……というかここ最近毎晩のように夢に出てくるが、暇なのか?
神として、やるべきことは山のようにあるだろう」
「忙しいっちゃ忙しいんだけど?
それでプライベートが潰れるのもイヤだからさ、こうしてリフレッシュしに来ているわけ。
ここなら人々からの声も聞こえないしね」
「人の夢を休憩所扱いするんじゃない」
心底リラックスした表情で人の夢の中でふわふわと浮き、昼寝の体勢まで取り始めたこの神は本当に人の神経を逆撫でするのが上手い。
「まったく……お前のような男が神だなんて、世も末だな」
「随分と酷い言い様だ。
わたし以上に神々しいGodなんて他にいないというのに」
「ははは、赤くなった耳のまま言われてもな」
迷惑なことこの上ないが、Godとの会話自体はイヤではない。
というかこの男、言動も見た目も怪しすぎて、定期的に接触し真意を探っておかないと、絶対に何かやらかしそうで怖いのだ。
……この先救国の旅に出たとして、『ハッハッハ、わたしこそが千年の救国を邪魔していた黒幕だったのさ!』とか暴露されても、まったく驚かない自信がある。
「……で、さっきの発言はなんだ?
理由なく私のことを貶したのなら、その尖った耳が1メートルに伸びるまで引っ張ってやるが」
「サラっと怖いこと言わないでおくれよ。
――別に、歴代のジャンヌと比べて君は随分と毛色が違うな……と思っただけ」
Godのふてくされた表情を見る限り、今の言葉に偽りはないようだ。
「まあ私自身、聖女なんて柄じゃないのは自覚しているからな。加護の力も歴代のジャンヌに比べて弱いようだし……」
「そうなんだよね~、それがGod的にも悩みどころ?
いざ戦場に出たとして、大丈夫? 結界とかも最低限しか使えないから、若干不安だったり」
「お前が私の心配をするとはな。
だが心配しなくても、お前のような問題神を野放しにするのは怖いからな。そう簡単には死なないつもりだよ」
「……心配じゃないし。
君に最短記録で死なれたら、色々と台無しになるから言っているだけし」
「――ふ、ならそういうことにしておこう」
小さく笑い、私は彼の首元で髪のように光る不思議なオーラに触れた。
「個人的にはもう少し、お前とのこういうくだらない時間を続けたいからな。
リズと人生の最後まで共にいるという約束もしているし……はらわたが出ても、足が吹き飛んでも、生き続けてみせるさ」
「……ふーん。まあ、程々に期待しておくよ。
わたしの今後のためにも、君にはそれなりに長生きしてもらわないと困るしね」
こいつはもう少し、自分が何かを企んでいるということを隠すべきだと思う。
……だが、まあ。
「そうかそうか、では鋭意ずっと何かを企んでいてくれ。
それこそ私が長生きして、生涯お前の【何か】を潰し続けるのもそれはそれで一興だ。
その顔を悔しさで歪ませるのも面白そうだしな」
「――――」
皮肉と共に言えば、Godの瞳が虚をつかれたかのように見開かれる。
……基本的には、何を考えているかわからない男だが……。
「――ははっ。何その悪役みたいな宣言。
……仮にも聖女がする顔じゃないよ?」
こうして稀に子供のような笑顔を見せる時があるから、嫌いになりきれないのだ。
聖女はいつでも辞めるつもりでいるが、仮にその資格を失う時が来るとしたら――。
(お前と話が出来なくなることを、最初に寂しく思うのだろうな)
辞める予定も方法もわかっていない状態だが……漠然と、そんな予感だけはしていた。
*
「やれやれ。
破天荒な聖女の周りには、破天荒な仲間ばかりが集まってくるね。
……間違っても彼らの中の誰かに恋しちゃった――なんてことには、ならないでおくれよ?」
ジャンヌとして旅立ってしばらく。
仲間を増やしていく私に向かい、ある晩夢に現れたGodはそう言った。
前から私が恋をすることに関して否定的だと思っていたが……まさかわざわざ忠告するために現れるとは。
恐らく救国が疎かになることを心配しているのだろう、そこは腐っても責任感ある神というところか。
「お前に指図される謂れはない――が。
ジャンヌとしての責任を放り出すつもりはないから、そこは大丈夫だ」
「そこは心配していないけど……君って恋愛未経験だから、あっさりと絆されそうで怖いなぁ。
……ま、いいか。仮に君がいつか恋をしたいと願ったとしても――」
「このわたしがありとあらゆる手を尽くして、生涯独身でいさせてみせるからね!!
異性と親しくなるきっかけというきっかけを、すべて叩き潰してあげよう!」
「………………」
前言撤回。
……なーにが偉大なるGodだ、私にとっての――疫病神が!!!!
END



