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ショートストーリー

EPISODE:Flatnis Lailaps
『旅の前日譚 -最強の騎士-』

オレは常に強者と死に場所を求める騎士だ。
だが、だからといって平穏を望んでいないわけではない。
最優先は祖国と民の平和。
いずれそのために、自分の命を限界まで使いたいと願っているだけだ。

だけどこの話をすると、どうしてか――。
難しい顔を浮かべる、一人の部下がいた。



どうも、僕はリージェネートの騎士その1!!!!
現在世界の脅威である化け物、嘆ク者の群れを退治するためにとある僻地に遠征中ッ!!!
――自己紹介の勢いがすごいって!?
そんなの走りながらなんだから仕方ないだろう、こっちだって必死なんだよ!!!
なんたって――。

「ハハハハッ!!
どうした、世界の脅威と呼ばれながら、その程度か……!!!」

上司が比喩ではなく本当に、雷同然の速さで前線を突っ走っているもので!! 追いつくので精一杯……っていうか追いついてない! 悲しくなるほどの距離を空けられ置いていかれています!!
あの人こっちを一切振り返ることなく突っ走るんだもんよ!!! 昔学校の競争で一人圧倒的なビリだった嫌な記憶が蘇る……!!

「オオオオオ……!!」

内心文句を叫んでいる間にも、強力な嘆ク者が雷のような一閃で駆逐されている。
僕たち部下はその光景を見ながら、必死に彼を追いかけるだけで何もしていない。

僕の上司――リージェネート一の騎士であるフラトニス様は、比類なき強さを持つ御方だ。
きっとあの方に勝てる人間なんて、噂に聞いてる流浪の騎士ぐらいしかいないだろう。

で、一応僕は、彼の……というか、彼の後ろを守る隊に配置されているわけなんですが、びっくりするぐらい出番がない。
あらゆる任務において、フラトニス様に追いつこうと走っている間に、彼が敵を殲滅してしまうからだ。
ここ数年はエクスラトルとの激しい戦いは起きていないが、もし起きたら彼の存在自体が、敵国にとって脅威になるだろう。

「はぁ、はぁ……今日も追いつけなかった……この隊に入ってから僕、5キロは痩せた気がする……」

野営地の個室テントで死んだように座り込む。
戦わずして勝てるのは楽でいいのだが、本当に走っているだけなので働いていないことへの罪悪感がすごい……。
しかし僕以外の面子は慣れているのか、息切れしていないし、彼の行動に疑問はないようだった。

「随分と疲れているな。
明日は明日で別の討伐任務が入っている、今日はゆっくり休んでくれ」
「あ、フラトニス様」

現れた上司は、片手に酒瓶を持っていた。
恐らく僕たちに労いとして振る舞うために、持ってきてくれたのだろう。

「飲め。いける口だろう?」
「きょ、恐縮です」

コップに注がれた酒を差し出され、恐る恐る受け取った。
彼とこうして面と向かって話すのは、実質これが初めてかもしれない。

「実際はフラトニス様についていっているだけなので、自分が何かをしたという実感がないのですが……」
「何を言う。
お前たちが背中を守っていてくれるから、オレも安心して最前線で戦えている。
……いつも感謝しているぞ」
「フラトニス様……」

フラトニス様は、いつも部下への労いと優しさを忘れない。
以前別の任務で軽い怪我を負ったとき、一番に気づいて手当ての手配をしてくれたのも、この人だ。

「……フラトニス様は、どうしていつも最前線に出られるのですか?」
「む?」

酒を一口飲み。その軽い酔いに任せてずっと思っていたことを質問してみた。

「あなたはリージェネート最強の騎士です。家柄も実力も並ぶものはそういない。
……多少部下をこき使ったところで誰も文句は言わないのに、何故いつも一番危険な最前線に、一人で向かわれるのですか?」
「――そんなの、決まっているだろう」

僕の疑問に、フラトニス様は即座に応じた。

「戦場こそが、オレが生き、死ぬ場所だからだ」
「…………」

純粋な瞳と声色で断言され、絶句されてしまった。

「オレは騎士として、国のために戦い国のために、命を極限まで使い切って死にたい。
それこそ、自分自身を燃やし尽くすような在り方でいたいのだ」

それは。
「……早死にする、生き方ではありませんか?」
「はは、そうだろうな。
だがそれがどうした? ライラプス家の騎士にとって、戦場で死ねることは何よりの誉れだ」

本気だ。
本気でこの人は、戦場で死ぬことを夢見ている。
普通の人間なら、長生きして幸せになりたいと漠然と思っているはずなのに。

「そん、な。
やり残したことなどは、ないのですか?」
「あるはずないだろう。
まあ、唯一妹の行く先が気がかりだが……あれは既に自分の生き方を見つけているから、心配はいらない」

……きっとその回答は、騎士としては正解なのだろう。
誰もが素晴らしい英雄の考え方だと称賛し、実際彼が国のために死んだら、歴史に名を遺し後世まで語り継ぐのかもしれない。
でも――。

『そこのお前、今の任務で負った傷を隠しているな?
……大した傷じゃないから治療しなくていい? バカを言え、軍にいるからといって、自分を大切にしなくていい理由などない』

彼は以前、確かにそう言っていたのに。

「……僕は……フラトニス様に長生きしてほしいです」
「ハハ、オレと渡り合える強者がいなければ、否が応でも長生きすることになるだろうな」

……違う。
僕は純粋に未来に夢を見て、生きて幸せになってほしいんだ。
どうすれば心配の気持ちは……静かに狂っているこの人に伝わるのだろう?



『きっとお前はオレと出会うために、強き聖女として生まれてきたのだ!』

「――はは……」

敵国の聖女と出会った彼の叫びが、通信を通してここまで聞こえてくる。
なんて、なんて面白いんだろう。あれだけ戦場で死ぬことを夢見ていた彼が……たった今この瞬間、一人の女性を愛し、共に生きることを夢見て手を伸ばしている。

「……敵国の聖女に、ありがとう――なんて言ったら、我らが狂愛の神に罰せられるかな?」

わかっていても、感謝の気持ちを抱かずにはいられなかった。



「フラトニス、どうした?」
「……いや。
待機させていた隊の中に、後方支援を担当している部下たちがいてな。
しばらくお前に同行する以上、彼らとも別行動か……と思っただけだ」
「そうか。
……心なしか少し寂しそうに見えるし、さぞ見どころのある、頼りがいのある者たちなのだろう」
「当然だ。
いつかお前を手に入れリージェネートに連れ帰った暁には――」

「真っ先に彼らへ、お前という伴侶を紹介してみせよう……!」

END