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ショートストーリー

EPISODE:Cronoll
『旅の前日譚 -孤高の傭兵-』

傭兵にとって死は隣り合わせだ。
だから、いつ死んでも問題がないよう特定の居場所は作らない。
大事だと思う人間も作らない。

この生き方は何があっても、絶対に変わらない。
……そもそも自分が誰かと群れて生きてくなんて、考えるだけで反吐が出る。



こんにちは、僕は仲間と共に各地を渡って商売をしている商人です。
職業柄特定の居場所は持っていないんですが、広い世界の知らない土地を旅するのはとても楽しいので、自分でもこの仕事が向いているんだなって思います。

でも一つ問題が。
僕たちキャラバンは基本的に馬で移動しているんですが、街の外は危ない。
凶暴な獣ぐらいなら可愛いもの。この世界には【嘆ク者】という、何処から来たのかわからない化け物が闊歩しています。
備えもなく遭遇したら最後、圧倒的な力で殺しにかかってくる、とんでもない存在です。
だから外に出る時は基本的に誰かに護衛してもらいます。
普段から腕の立つ護衛を雇っているのですが、今回は別格中の別格――。

「……依頼内容はエクスラトルの首都までの護衛で間違いないな?」
「あっ、はい!」

周辺諸国にいる傭兵の中でも1、2を争う程に腕が立つという、銃使いのクロノールさんに依頼しました。
雰囲気からして出来る傭兵! って感じで格好いいなぁ。

「オーピアを守る結界の補強に必要な材料を届ける必要があって。
嘆ク者はもちろんですけど、賊の類も怖いから……。
エクスラトルやリージェネートを中心に、クロノールさんは確実に依頼をこなしてくれるってもっぱらの評判ですよ」
「興味ない。契約通りに報酬がもらえれば、それでいい」
「わかりました。では早速出発しますね」
「さっき伝えた配置からずれるんじゃねえぞ」

以降それ以外のことは話さず、荷馬車に荷物がすべて載っているのを確認してから、オーピアへ出発した。



銃声が二発。
たったそれだけで街道に現れた嘆ク者の眉間に穴が開き、彼らは嘆くような声を上げて消滅していった。

「す、すごい。
かなり距離があったのに、襲われる前に倒しちゃった……」
「おい、身を乗り出すんじゃねえ。
守りにくくなるような真似はしないと、契約にあっただろうが」
「あ、すみません、ついびっくりして……」

かろうじて嘆ク者だとわかる距離に入った時点で命中させちゃったよ、この人……だがこの分なら、旅の安全は確約されたようなものだ。
相手がなんだろうが、きっと近づく前にクロノールさんが排除してくれるだろう。

「クロノールさんは、どうして傭兵になったんですか?」
「教える義理はない」
「そうですか。僕は旅をするのが好きで、仲間と一緒にキャラバンを立ち上げたんです」

話を聞いてたか? と、彼の視線が言っているが。
こちらも荷台でまったく喋らないあなたと二人きりなのがだいぶ気まずいので、そこは勘弁してほしい。

「故郷がエクスラトルとリージェネートとの戦に巻き込まれて消えた、というのも理由で。
特産品を作っていた僕の両親もそれで亡くなって……二人が大事に守っていた商品を世界中に広めたいって思って、旅する商売を始めることにしました」
「俺と同じく、根無し草ってわけか」
「はは、そうですね」
「……だが何故、あの国相手に商売してる?
千年も懲りずに戦を繰り返し、結果あんたの故郷を奪ったエクスラトルになんて、力を貸す必要ないだろ」
「うーん。
強いて言うなら……僕は国とか関係なく、たくさんの感情が溢れている今の世界が好きなんだと思います」
「……感情?」
「はい。
きっと故郷を焼かれた時のままただ立ち尽くしていたら、僕は心が死んで、両親を喪った哀しみさえも無気力に忘れていた」

でも――。

「旅の中でたくさんの苦楽を得て。
多くの人と出会い、時には別れを哀しむことで…………僕は二人が生きていた頃の感情、そして失った時の気持ちを、忘れずにいられる」
「哀しみなんざ、いっそ忘れたほうが気が楽だろ」
「そんなことありませんよ。クロノールさんにだって、一緒に得た哀しみすらも忘れたくないと願う人がきっと……」
「俺は死ぬまで、一人で生きるのが性に合ってる。
……そもそも、俺と共にいようだなんて思う悪趣味な人間がこの世界にいるわけがねえ」
「そんなの――」

わからないですよ、と言おうとした瞬間。

「黙れ」

軽い鉄の音と共に、銃口を向けられ。
破裂する音が響くのと同時に――顔の真横を、鋭い銃弾が通過していった。

「……!」

僕の肌スレスレを通過した銃弾は、背後に迫っていた何かに直撃する。
奴が消滅する悲鳴が間近に響き、初めて僕は背後まで接近されていたことに気がついた。

「な、嘆ク者……? クロノールさんが警戒していたのに、いつの間に」
「今この場で発生したんだろ。
……一緒に撃ち抜かれたくなきゃ、大人しく伏せてろ」

クロノールさんが立ち上がり、荷馬車を囲う嘆ク者たちをぐるりと見渡す。
瞬間、彼は冷静に銃を構え――。

「余計なことばかり言われて鬱陶しいが、契約は契約だ。
……忌々しいあの国まで確実に送り届けてやる」

想術にも匹敵する、無数にして正確無比な銃弾で、嘆きの声を上げるモノたちを次々葬り去っていく。
無感情に敵を捉えるその瞳はとても格好良くて。
同時に……。

どこか、哀しそうだと思った。



「ありがとうございました。
気持ち程度ですが報酬を少し足しておいたので、美味しいものでも食べてください」
「……あんたは余計なことばかり言い、余計なことばかりするな」

無事目的地のオーピアに到着し、クロノールさんとも別れの時がやってきた。

「クロノールさんは、これからどちらに?」
「この国に長居するつもりはねえが……オルティエに用がある」
「いいですね。あそこは僕たちのようなキャラバンが多く滞在していますから、銃に関係する品を扱う人たちもいるでしょうし」

報酬を懐にいれると、クロノールさんは早々に背中を向けた。

「これで依頼終了だ。俺は行くぞ」
「あ、はい! ええと……ええと……!」

無言で見送るのはもったいないような気がして、僕は彼を数秒でも繋ぎ止められる話を必死に探した。
僕のような一商人が、凄腕の彼を雇える機会なんて今後絶対にないだろうし……。
せめて何か、餞別のような言葉を送りたい。

「……良い旅を!!
哀しみや感情が無駄だと思うあなたの価値観を丸ごとひっくり返すような――。
それこそ流れ星が凄まじい勢いでぶつかってくるような、とんでもない出会いが、あなたにありますように!!」

僕の半ばヤケのような叫びに、クロノールさんはわずかに目を見開いてから。

「……ハッ。そんな事故みたいな出会い、生涯ねえよ」

皮肉げに笑い。だけど僕の言葉を最後まで否定せず、去っていった。



「……ん?」

ワケあって長期滞在することになったオルティエで、賑やかなキャラバンを遠目に見つけた。
その中に、薄っすらと見覚えのある男が一人いる。

「あいつは……」
「どうした、クロノール。あのキャラバンに何か用事があるのか?」

思わず立ち止まった俺に、当代のジャンヌ・ダルクが声をかける。
よみがえった会話の記憶と、隣にいる心の底から疎ましい女の存在が何故か自然と重なって……。

「……あんたは他の連中から、『月のようだ』とよく言われてるようだが、
俺から言わせれば――とんでもない勢いでぶつかってくる、タチの悪い流れ星のほうがしっくりくるな」
「うん、なんだ。脈絡もなく喧嘩を売っているのなら、買うが?
もちろん私が勝つのを前提で」
「言ってろ。出会った途端あらゆることで振り回しやがって。
……災難な流れ星だ、本当に」

口元が、自然と笑っていたような気がした。

END