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ショートストーリー

EPISODE:Rex de Couraciel
『旅の前日譚 -理想の騎士-』

理想の騎士である兄上は、常に輝いていた。
だけど、自分と共に彼を支えてくれる騎士団の仲間ももちろん、素晴らしい人たちで。
自分も彼らのように、立派な騎士になりたいと何度も思っていた。

――特に、ジャンヌと出会うまでに話した彼のことは、よく覚えている。



俺は騎士団に入ってまだ間もない、なんの特徴もない騎士。普段は首都オーピアを拠点に周辺の村や街の警備や巡回をしています。
要は戦いよりそういう細々とした任務のほうが多い、未熟者です。
まあ家柄もそこそこしかない俺が、名誉ある騎士団に入れただけでも上々だろう。
後は家に恥をかかせない程度に任務をこなしていれば、人生は安泰するはず。

……そんな呑気なことを思っていた時期が、ありましたよ。

「おや、そこにいるのは同期の……よろしければ、自分と共に自主訓練をしませんか!」
「おわっ」

騎士団長の弟、レクス・ド・クラーシェルと出会うまでは。
俺の姿を見つけるなり、何処ぞの凶暴馬のような勢いかつ爽やかな笑顔で接近してくるのだから心臓に悪いというか……怖い。一種の狂気を感じる。
というか50メートルは離れていたと思うんだが、何故一瞬で距離を詰めてこられたのか。

「聞けば先日兄上が指導していた剣術訓練に参加されていたとか!
自分は巡回があったので参加できず、残念だったので……ぜひ、その時の話を聞かせて頂きたく!」
「お、おう。本当にレクスは真面目だな……」

怒涛の勢いに思わずのけぞってしまったが、俺はこの同期が嫌いなわけじゃない。
レクスを嫌いな奴なんて、騎士団には皆無だろう。
まあ、最初彼と同期として入団した時は、そりゃ良い感情は抱いていなかった。
騎士団長の弟なんて、出世と活躍が約束されたようなものだからな。
本人の実力がなくても、団長の面目を保つために国側が上へと引き上げるだろう。

……そう思っていたのだが。
こいつは、俺の予想を良い意味で裏切った。

「それは構わないけど……お前、この前団長の執務室に呼ばれたらしいな。
……また何かやらかしたのか?」
「あ……は、はい。
国境付近に近づいてきたリージェネート軍を牽制する任務についていたのですが、
待機時間をかけて周辺の民を不安にさせるぐらいなら、手っ取り早く撤退させてほうがいいと思い……」
「思い?」
「万が一のために用意されていた想術砲の砲弾を、相手の国境目前まで投げ飛ばしました。
……結果、予想より大規模な爆発になってしまい」
「あはははははは!!!」

想像以上のやらかし具合に、往来ということも忘れて大笑いしてしまった。

「そりゃ当然大目玉を食らうだろ。団長の説教、今回は特別長かったんじゃないか?」
「はい……。
五時間は地面に膝をつかされたまま、じっくりと叱られました」
「そうかそうか。お前は本当に懲りなくて、面白いなぁ」

――これだから、僻むという発想すら出てこないのだ。
このでかい同期は愉快で良い奴すぎる。
誰かを守ることを第一にしているこいつに命を助けてもらった仲間だって、一人や二人じゃない。

「ですが結果的に相手は撤退しましたので、自分はあの判断を後悔していません!」

無駄に広い胸板を叩き、レクスは堂々と宣言する。
……ここまで聞くとただの愚か者だと思われるが、レクスは愚かでもバカでもない。
騎士としての才能は同期どころか全体で抜きん出ており、それこそ今後の成長次第では、団長に迫ると噂されているほどだ。

だからこそ、優しすぎて暴走しがちという短所が、もったいないように思えた。
彼をゆっくりと、多くのものを見せながら導いてくれる存在が現れれば、きっと騎士として劇的に成長すると思うのに。

「別に団長から受けた指導を教えるのはいいんだが。でも……」
「でも?」
「なんで俺なんだ?
もっと強い騎士団の先輩に聞いたほうが、実りあるだろう」
「……?」

俺の素直な意見に、何故かレクスは首を傾げた。
お世辞にも俺には特別目立つ才能や実力はない。故に至極真っ当な疑問だと思うのだが……。
問われたレクスはその大きな体躯で俺を見下ろしながら、あまりにも純粋な瞳をしていた。

「自分は、貴方が一番、兄上の指導を的確に覚えていると思っているのですが……」
「……え?」
「記憶力がとても良いですよね。
先日酒場で奢りをかけてペア・ゲームをしたとき、
貴方は揃いやすいカードを新人に譲っていましたが……」

おいおい。

「配置が遠く覚えにくいカードは、さりげなく自分で回収していました」
「……お前、気づいてたのか」
「? 見ていればわかることでは。
それに貴方は叱られてばかりの自分を見放さずに接してくれる、とても優しい――素晴らしい騎士ですから、非常に頼りになります!」
「…………」

勘弁してくれ、と思った。
恥ずかしさで顔から火が噴き出しそうになる。

「あーもう、これだからお前は、図体のでかいむさ苦しい男なのに、放っておけないんだ」
「……? どういう意味でしょう?」
「良い奴すぎるってことだよ。
……わかった、俺でよければ団長の指導内容、全部教えてやる。
ただし、しっかりモノにしろよ?」
「無論!
兄上の次に立派な騎士になるために、一つでも多くの技術を修得してみせます!」
「はは、頑張れよ」

レクスはあくまで、団長が理想の騎士だと思っているようだが……。
俺からすれば、レクスこそが世界一の騎士になる未来も、有り得そうだと思った。



兄上から左遷を告げられ配置となった、シノン城の倉庫。

「おや?」

今日も警備を終えたので中を確認してから戻ろうとしたところ、倉庫の片隅に何かが落ちているのに気がついた。

「これは……トランプ?」

だいぶ古いものだろう。
使い古されたカードは恐らく、前にいた騎士たちが暇潰しに使っていたものに違いない。
……拾い上げてそれを見つめると、左遷直前に他愛のない話をした同期の存在を思い出した。

「……結局、彼の教えを活かす機会は訪れませんでしたね」

だが聞けば近々、当代のジャンヌ・ダルクが城を訪ねてくるという。
自分は絶対に彼女の騎士となり、民のために国を駆け巡るのだ。
彼女が、多くの人々を笑顔にしてくれると信じているから。

――そうして少しでも騎士として成長した姿を、あの彼にも見せられるといい。
そのときは胸を張って言うのだ。
ジャンヌや貴方のおかげで成長できたのだ、と。

END