比良坂ユキの「奥音里の歩き方」④

中一にして生徒会長、奥音里自慢の天才少年・ユキくんが、奥音里の魅力を紹介してくれます!



みなさん、こんにちは。比良坂ユキです。今回は僕が個人的に気になってる場所に皆さんをお連れします。
題して、「夜の奥音里ミステリーツアー」です。
え? なんで夜に連れて行くんだ、って? ちょっと人に見つかるとうるさそうなんですよ。
まあ、肝試しだと思って、僕に付いて来て下さい。

……今日はヤスの邪魔も、ユヅキの監視もなさそうですね。
それじゃ、声を潜めて、行ってみましょう……。



旧市街

奥音里って三日月の形をしてるんですけど、北側と南側では雰囲気は大分違います。
目抜き通りや風厘館があるのは南側。
ちょっとした商店街があったり、もちろんバスも通ってますから、この町でも結構モダンというか、人通りがある方です。
それに対して、北側は古い民家が立ち並ぶ「旧市街」と呼ばれています。
人が住んでるのか住んでないのか分からないような家が多く、人通りもまばら。
夜は外灯も少ないので、場所によっては真っ暗になり、ちょっと不気味です。
どうして「旧市街」と呼ばれてるかというと、実はこの辺り、ひと昔前は温泉街としてにぎわっていた時代があったそうなんです。
それが何故か廃れてしまって、今ではまるでゴーストタウンのようになってしまったとか。
その理由は……よくユヅキに訊くんですけど、教えてくれないんですよ。

さあ、移動しますよ。物音を立てないよう、お願いしますね。

空家

旧市街にある空家です。この辺りにはこんな風に見捨てられた家が結構あるんです。
その中でもこの家は、僕が物心ついた時からずっと人の気配がなくて、今じゃ誰も近づこうとしません。
なんて言うか……。よくわからないんですけど、すごく不思議な空気を感じます。
……中に入れって? 嫌ですよ! ……べ、別に怖いわけじゃありませんから!
そんなに言うなら、あなたが町に来て、入ってみたらいいじゃないですか!?

あれ? 今、建物の陰に、誰かいませんでした?
……すみません、見間違いだったようです。

駄菓子屋

旧市街にある駄菓子屋さんです。子供の頃、何度か来たことがあります。
……え? 今でも子供だろ、って? やめてください、子供扱いは。
店主が気まぐれなのか、営業時間も営業日も決まっていません。
気がつけば開いてるし、そうかと思えば閉まってる日もあって……。
いや、どちらかというと閉まってる日の方が多いですね。
24時間営業してるのは、店の前に立っている公衆電話くらいです。
ここにあるのは、なんとダイヤル式の赤電話なんですよ。
皆さん、見たことありますか? 僕、先日試しに使ってみたんですけど、ビックリしました。
だって、10円玉がないと電話がかけられないんですよ!?
まあ、それを体験するだけでも、ここに来る価値はあるかもしれませんね。

ん……? 今、物音が……気のせいかな。
あ、すみません、何でもないです。

風厘館前の田舎道

一歩、風厘館を出ると、そこにはもう自然の景色が広がっています。
目抜き通りに出るまでは、こんな風に舗装されていない田舎道が続いてるんです。
自動販売機が夜道を照らしてますが、ここにはちょっと珍しいものが売ってるんです。
それは、この町限定生産の「奥音里ラムネ」!
奥音パンダが缶にデザインされてて、一部のマニアの買い占めが問題になってるくらい人気があります。
もちろんラムネは本当に美味しいので、一度試されてみては如何でしょうか。

……なんだか、誰かに付けられているような気がします……。
気のせいだと思いますが……風厘館に急ぎましょう。



……ふう。脅かしてしまってすみません。
変な話かもしれませんが、実は僕、時々誰かに見られてるような気になることがあります。
特にここ最近は、そう思うことが多くて……。
いや、すみません。これからいらっしゃる方に、こんな話するの、失礼ですよね。

そういえば、神木川にも、音無池にもまだ行ってませんよね。
ただ、今夜もそうですけど、これ以上、部外者の方に奥音里のことをいろいろご紹介するのは、ちょっと危険かもしれないです。
いや、ただの勘なのですが……。

この続きは、またいずれ。
では皆さん、お気を付けていらっしゃって下さいね。