menu
  • new

今夜の作品は、娼婦がスパイに勧誘される話だった。

何故か、自分の時のことを思い出してしまう。

久世ツグミ
(人の運命なんて……本当に何かきっかけで大きく変わるか分からないわよね)

スパイとして様々な活躍を続ける彼女。
けれど彼女は、敵の将校を逃がしてしまう。

───恐らく、愛していたから。

久世ツグミ
(もし私が彼女だったら……)

そんなことを考えていると不意に涙が滲む。

久世ツグミ
(あ……っ)

バッグの中からハンケチを取り出そうとして、
そのまま床に落としてしまう。

鴻上滉
「…………」

それに気付いた滉が、素早く拾い上げてくれる。

私は小さく笑んで頭を下げ、そのハンケチを受け取る。

久世ツグミ
(……あっ)

その瞬間。
彼の指が触れて、私は思わずまたハンケチを落としそうになってしまう。

鴻上滉
「……!」

すんでのところで白い布を握り締め、
私はまたスクリーンに視線を向けようとした。

けれど───すぐ側に彼の顔があって、私の躯が勝手に強張ってしまった。

滉は、じっと私を凝視めている。

映画館の薄暗がりの中でも、彼の眼差しがはっきりと分かる。

LINEで送る

©2016 IDEA FACTORY