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久世ツグミ
「ここを通るのは久し振り。独りだとやっぱり少し怖くて。
近道なのは分かるのだけれど」
星川翡翠
「不気味と言えば不気味ですよね。
僕は慣れてしまったので急いでいる時とか、雨の日は使います」
久世ツグミ
「雨の日! 確かにそれはいいか……きゃぁっ!?」
星川翡翠
「危ない!! あ……うわぁっ!?」
久世ツグミ
「きゃ……!?」
久世ツグミ
「……!?」
星川翡翠
「あ……っ」
久世ツグミ
「ご、ごめんなさ……っ」

咄嗟に躯を離そうとしたものの、その背中を
思い掛けず強い力で押さえ込まれた。

久世ツグミ
「……翡翠?」
星川翡翠
「……駄目です」

そう言った翡翠の眼差しは、先刻のそれとは違っていた。

ランプの、くすんだオレンジ色の光を映して
翠と紅の瞳が熱っぽく煌めいている。

久世ツグミ
「あ、あの……翡翠……っ」
星川翡翠
「……大丈夫です。僕は貴女を汚したりは……しない」
久世ツグミ
(……汚したりはしないと言うのは……)

その言葉の意味を考えようとして、
私は自分を恥じた。

そんな私の髪に翡翠の指がそっと絡む。

この間、本を開いてしまって心配された時よりも更に顔が近い。

星川翡翠
「……本当に、何も……しませんから」

誰かの顔をこんな近くで見たのは初めてで、
恥ずかしさから力が抜けてしまいそうだ。

久世ツグミ
「……翡翠、あの……」

私達の唇はもう触れ合いそうな程に近く、
お互いの吐息をはっきりと感じる。

星川翡翠
「……もう少し、逃げないで下さい」
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