- 平 教経
- 「? おい、どうした。一騎打ちの最中に、何故刀を納める」
- 源 義経
- 「……お前との勝負はここまでだ」
- 平 教経
- 「何だと!? 途中で投げ出すとは貴様、どういうことだ!」
- 源 義経
- (……この先駆けは、奇襲のための膳立てに過ぎない。教経との勝負は優先できないのだ)
- 源 義経
- (何という皮肉だ――教経と戦うために戦場へ出たというのに)
- 源 義経
- 「く……!」
- 平 教経
- 「待て!! 貴様は俺と戦うためにここへ来たのではないのか!」
- 平 教経
- 「答えろ、義経っ!!」
- 源 義経
- 「!?」
- 平 教経
- 「貴様、何故目を背ける!」
- 源 義経
- 「の、り……つね……」
- 平 教経
- 「何故俺から逃げる! 貴様、俺との約束を忘れたのか!」
- 平 教経
- 「俺も貴様も、今このときのためにそれぞれの血を受け入れたのではないのか!」
- 平 教経
- 「貴様の姿を見た時、ようやく時が来たと思った。だと言うのに……また逃げるのか」
- 平 教経
- 「今は無理だと、また離れていくのか。何度、貴様はこの手から逃げるんだ!」
怒りをあらわにする教経に、何も言えない。
応えられない悔しさに唇を噛み、私は振り切るようにその場を後にしようとした。
だが――。
逃げようとした私に教経が飛び掛かり私は地面へと倒された。
炎のような瞳が上から私を見下ろす。
顎を強くつかまれ、顔をそむけることも出来ない。
勢いよく倒され、強かに身体を打ち付けた。
しかし、その痛みを感じられないほどに教経の手が力いっぱい私を押さえつける。
鋭く吠える教経の瞳には怒り、悔しさ――そして戸惑いが見て取れた。
それが私の心を深くえぐる。