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  • 鱗 希驪 「さて、と。君はどうやって誘惑してくれるのかな?
    言っとくけど俺、手強いよ?」 
  • 自信ありげに微笑む希驪太子。
    彼はやはり、相当女遊びをしなれているのだろう。 私を前に寛いだ様子でいるところからも見て取れる。

    でも、出来ないとは思わなかった。
    ――私の本来の仕事は、『密偵』
    男たちを誘惑して情報を引き出すことだから。

    普段のターゲットは、女慣れしていて当然。
    むしろ女を人とも思わないような人ばかり。
    それに比べればずっとやりやすいように思えた。
  • シリーン 「ふふっ。希驪太子は随分女性に慣れてらっしゃるんですね」
  • 鱗 希驪 「んー、まあね。俺、女の子大好きだし。
     女の子といたほうが楽しいでしょ?」
  • 軽口を叩く希驪様の横に腰を下ろし、慎重に距離を見定める。
    こういうのは最初が肝心だ。
  • シリーン (さて、と……。
     希驪太子は、どう攻めるのがいいかしら)
  • 初心なふりをしたほうがそそられるだろうか。
    それとも、驚くほど妖艶に?

    彼は、女慣れしている様子だ。
    となると手加減は不要だ。私は、 前かがみになってわざとらしく彼の顔を覗き込んだ。
  • シリーン 「ふふっ、希驪太子はどういうのがお好きかしら。
     ねえ、今まで出会った女性のお話を聞かせてくれません?
     それ以上の夢を貴方に見せたいもの」
  • とびきり妖艶に微笑んで見せると、彼は私の胸元を思い切り凝視した。
    ……あまりにも率直な目線だ。
  • シリーン (本当にこの男は……)
  • 焦らすように一歩後へ足を引いて、指先で扇情的に襟元を緩める。
    私は、唇をしならせて微笑んだ。
  •  
  • シリーン 「ふふっ、可愛いですね。希驪太子は……」
  • 鱗 希驪 「…………」
  • ごくりと、希驪太子の喉が鳴る。
    しかしその時、希驪太子は我に返ったようにあっと声をあげた。
  • 鱗 希驪 「あ、そうだ。こういうのは勝ち負けの方法を決めておかないとね。えーと、そうだな……。
     これを使うってのはどう?」
  • そう言って希驪太子が指さしたのは、彼が懐から出した扇子だった。
  • 鱗 希驪 「俺がこれを口に咥えて、落としたら俺の負け。
     落とせなかったら君の負けっていうの。
     ……どう?」
  • 挑戦的に、扇子を指差す希驪太子。
    ――これを咥えていられないほど誘惑してみせろと言っているのだ。

    むしろ、そういうほうが私の得意分野だ。
    肉体の『誘惑』は心の『誘惑』よりもずっと分かりやすく単純だから。
  • シリーン 「ええ、それで構いません。では、始めさせて頂きますね」
  • 鱗 希驪 「ん」
  • 希驪太子が口に扇子を咥えたのを確認すると、私は肩にかけられたヴェールを外して希驪太子の身体にしなだれかかった。