TOP
NEWS
STORY
CHARACTER
SYSTEM
GALLERY
MOVIE
SOUND
PRODUCT
ITEM
SPECIAL
2026.8.28更新
YouTube
Official X
購入する
COMMENT
SHORT STORY
SHORT STORY
Vol.01 アレクサンドル
Vol.02 ザビーネ
Vol.03 マエル
Vol.04 ラファエル
Vol.05 ジョナス
Vol.03 マエル・ド・ラヴァル
1日の始まりに
吸血鬼の1日は普通の人間とサイクルが昼夜逆転しているため、陽が沈んでから始まる。とは言っても、吸血鬼の寝起きの状態は人間とそう変わりはない。しゃきっと目覚める者もいれば二度を寝する者、いつまでもダラダラしている者など、吸血鬼もそれぞれである。そんなことから領主たちは目覚めてから最初の食事の時間になっても集まらなかったり、起きてきても飲み物だけを頼んだりと、自由気ままなことが多かった。これまでは。
「なんだ……誰も居ねえのか……」
ある日の夜の帳が落ちた頃。そっと食堂に足を踏み入れたマエルは、肩透かしを食らっていた。食堂であの娘が飲み物を給仕していると他の領主たちが言っていたのを小耳に挟んだことから、1日の始まりに彼女の顔を見るのも悪くないと思いつつやって来たものの……そこには誰の姿もなかったからだ。だが隣接するキッチンにはエドワードや使用人たち、そしてあの娘が何やら準備をしているらしい気配があった。
(……どうやらキッチンで仕事してるみたいだな。まあ忙しそうだし、声を掛けるのは後にしておくか)
マエルは椅子に座ってぼんやりと食堂の中を見渡す。
(今、ひとりきりってことは……飲み物とか飯の準備ができたら、あの娘が給仕しにくるんだよな……そしたらふたりきりってことか? いや……だからなんだってわけじゃねえし……オレはちょっと様子を見に来ただけだし……)
そんなことを思っていた矢先だった。扉が開く音を耳にしたマエルが期待と共に振り向くと、そこに居たのは……。
「マエルか。こんな時間から食堂に居るとは、何かあったのか?」
「……なんだ、ジョナかよ。オレが寝起きで食堂に居ちゃ悪いのか?」
「悪いとは言ってない。何かあったのかと聞いている」
「別に何もねえって。目が覚めて起きたんだから、何か飲もうかなって思ったんだよ。つうか、ジョナ。あんたこそ寝起きで食堂に来てどうした?」
「俺は目覚めた後に、この食堂で熱い紅茶を飲むようにしている。最近はそのような規則正しい生活をしようと心がけているところだ」
「へえ、あんたがね……普段は外に出ることが多くて、飯や飲み物を用意していたマインスターを困らせてたと思ってたが」
マエルとジョナが言い合っていると、新たな足音の主が現れる。ふたりがほぼ同時に振り向いた先に現れたのは――。
「あれ? マエルが寝起きから食堂に居るね。どうかしたの?」
「……ラファ。オレがここに居ちゃ悪いか?」
「いつもなら連絡もしないで館の外に出かけちゃってたりするでしょ。だから珍しいなって」
「そういうラファだって、前は起きてから部屋の中でダラダラしてたんじゃなかったか?」
「うん。前はそうだったけど、今はちゃんと起きてるよ。だって、あの娘が1日の始まりに飲み物を用意してくれるからね」
「ほ、ほう……そうなのか」
「ジョナもそうだよね? あの娘に言われて、紅茶を飲んでから1日を始めるようにしたんだよね?」
「……彼女に言われたからではなく、自分自身で生活を整えようと思っていたところだ」
「じゃあ、お茶を飲むだけなら、ここであの娘に会わなくていいんじゃない? 僕は会いたいから来てるんだけど」
「……彼女の淹れた紅茶はなかなかいい。その際に様子を窺うのもいいと思っている」
「ふふっ、ジョナも会いに来てたってことだよね。それで、マエルも気になって来たの?」
「いや、オレは別に……会いに来たってわけじゃなくて……」
マエルがラファに詰め寄られそうになっていると、食堂に新たな人の気配が現れる。それにつられるように3人が振り向いた先に居たのは――。
「夜の帳の食堂に、俺たち以外の3人が揃っているとは珍しいな」
「ええ。この時間に食堂へ顔を出すのはアレクと私ぐらいだったのに、何かあったのでしょうか」
「最近はラファとジョナも来るようになっていたが、今日はマエルも居るぞ……そうだ、せっかく5人が揃っていることだし領主会議を始めてはどうだ?」
「……コホン。それはまた別の時にでも。1日の始まりですから固いことは抜きにして、ゆっくりと過ごしてはいかが?」
「それもそうか」
そんな会話を交わしながら食堂に現れたのは、アレクサンドルとザビーネ。やがてマエルたち3人に近づき、それぞれが椅子に着く。
「ところで、マエルが寝起きから食堂に居るとは、珍しいな。何かあったのか?」
「またかよ……」
「また、とは?」
「いや、なんでもねえ。ちょっと寝起きに飲み物が欲しくて寄ってみたんだ。つうか、アレクやザビーネも来てるんだな」
「ああ。彼女の様子や働き具合を見ようと思ってな」
「様子を見るではなく、彼女に会いに、では?」
「まあ、そうともいえるか」
「えーー、アレクもそうなの?」
領主たちがそんな会話をしていると、食堂内に新たな足音が響きわたる。全員が振り向いたその先には――。
「お待たせいたしました、皆様。私、マインスターが給仕いたします。……おや、マエル様がこんな夜の帳から食堂にいらっしゃるとは珍しい。それに何やらがっかりしたご様子で……何かありましたかな?」
「……いや、別に」
「ねえ、それよりあの娘はどうしたの? いつもなら真っ先に彼女が給仕してくれるんだけど」
「エドワードから頼まれた仕込みに手間取っている様子で……それで急遽代わりに私が給仕に参ったという次第です。ではアレクサンドル様はコーヒーでしたな……」
領主たちは目的の娘が給仕に来なかったことを残念に思いながらも、マインスターの用意した飲み物を堪能していった。マエルも出されたコーヒーを飲んだが、なんだか拍子抜けしたような味だった。そして飲み終わった領主たちは、ひとりまたひとりと席を去って行く。
「――では、そろそろ仕事を始めるとするか。ザビーネ、執務室に来てくれるか」
「承知しました」
「天気が良いみたいだから星でも見に行こうかな」
「俺は館外へ出かけてくる。帰りは遅くなるだろう」
そして、特にすることもなかったマエルだけが食堂に残された。1日の始まりをあの娘の顔を見てから過ごせたら……というささやかな願いも叶えられず、さて、これからどうしようかと考えていた時だった。戸が開く音にマエルがヤレヤレ今度は誰だよ、と思いつつ振り向くと。
「皆さん! お飲み物はもう――え、マエルさん!? 食堂に来てくれたんですか?」
「お……おう。あんたが給仕してるとか聞いたんでな。様子を見に来たっていうか……」
「はい。最近は、目覚められた領主の皆様にお飲み物を用意する仕事を任されているんです。……先程は仕込みを手伝っていたため申しわけありませんでした」
「ああ、いいって。ちゃんと働いてるならそれで」
「あの、よろしければ新しいお飲み物を用意します。何かご希望はあるでしょうか」
「そうだな……あったかいスープとかあるか?」
「スープ……ええとフランスだと……コンソメでしょうか、ポタージュでしょうか?」
「……あんた、フランス料理がわかるのか?」
「はい、今、ちょうどエドワードさんから習っているところなので」
「そんじゃあ、ポタージュで頼む!」
「ふふっ、承知しました。すぐにご用意しますね」
笑顔で頷き、パタパタとキッチンに向かって駆けていく彼女の後ろ姿を見ながら、マエルは思った。
「……起きがけに食堂に来るのも悪くねえな」
こうして、彼女がプルガトリウムの館に来てからというもの。しばらくぶりに領主全員が食堂に集うようになったという。
END
トップへ戻る
「なんだ……誰も居ねえのか……」
ある日の夜の帳が落ちた頃。そっと食堂に足を踏み入れたマエルは、肩透かしを食らっていた。食堂であの娘が飲み物を給仕していると他の領主たちが言っていたのを小耳に挟んだことから、1日の始まりに彼女の顔を見るのも悪くないと思いつつやって来たものの……そこには誰の姿もなかったからだ。だが隣接するキッチンにはエドワードや使用人たち、そしてあの娘が何やら準備をしているらしい気配があった。
(……どうやらキッチンで仕事してるみたいだな。まあ忙しそうだし、声を掛けるのは後にしておくか)
マエルは椅子に座ってぼんやりと食堂の中を見渡す。
(今、ひとりきりってことは……飲み物とか飯の準備ができたら、あの娘が給仕しにくるんだよな……そしたらふたりきりってことか? いや……だからなんだってわけじゃねえし……オレはちょっと様子を見に来ただけだし……)
そんなことを思っていた矢先だった。扉が開く音を耳にしたマエルが期待と共に振り向くと、そこに居たのは……。
「マエルか。こんな時間から食堂に居るとは、何かあったのか?」
「……なんだ、ジョナかよ。オレが寝起きで食堂に居ちゃ悪いのか?」
「悪いとは言ってない。何かあったのかと聞いている」
「別に何もねえって。目が覚めて起きたんだから、何か飲もうかなって思ったんだよ。つうか、ジョナ。あんたこそ寝起きで食堂に来てどうした?」
「俺は目覚めた後に、この食堂で熱い紅茶を飲むようにしている。最近はそのような規則正しい生活をしようと心がけているところだ」
「へえ、あんたがね……普段は外に出ることが多くて、飯や飲み物を用意していたマインスターを困らせてたと思ってたが」
マエルとジョナが言い合っていると、新たな足音の主が現れる。ふたりがほぼ同時に振り向いた先に現れたのは――。
「あれ? マエルが寝起きから食堂に居るね。どうかしたの?」
「……ラファ。オレがここに居ちゃ悪いか?」
「いつもなら連絡もしないで館の外に出かけちゃってたりするでしょ。だから珍しいなって」
「そういうラファだって、前は起きてから部屋の中でダラダラしてたんじゃなかったか?」
「うん。前はそうだったけど、今はちゃんと起きてるよ。だって、あの娘が1日の始まりに飲み物を用意してくれるからね」
「ほ、ほう……そうなのか」
「ジョナもそうだよね? あの娘に言われて、紅茶を飲んでから1日を始めるようにしたんだよね?」
「……彼女に言われたからではなく、自分自身で生活を整えようと思っていたところだ」
「じゃあ、お茶を飲むだけなら、ここであの娘に会わなくていいんじゃない? 僕は会いたいから来てるんだけど」
「……彼女の淹れた紅茶はなかなかいい。その際に様子を窺うのもいいと思っている」
「ふふっ、ジョナも会いに来てたってことだよね。それで、マエルも気になって来たの?」
「いや、オレは別に……会いに来たってわけじゃなくて……」
マエルがラファに詰め寄られそうになっていると、食堂に新たな人の気配が現れる。それにつられるように3人が振り向いた先に居たのは――。
「夜の帳の食堂に、俺たち以外の3人が揃っているとは珍しいな」
「ええ。この時間に食堂へ顔を出すのはアレクと私ぐらいだったのに、何かあったのでしょうか」
「最近はラファとジョナも来るようになっていたが、今日はマエルも居るぞ……そうだ、せっかく5人が揃っていることだし領主会議を始めてはどうだ?」
「……コホン。それはまた別の時にでも。1日の始まりですから固いことは抜きにして、ゆっくりと過ごしてはいかが?」
「それもそうか」
そんな会話を交わしながら食堂に現れたのは、アレクサンドルとザビーネ。やがてマエルたち3人に近づき、それぞれが椅子に着く。
「ところで、マエルが寝起きから食堂に居るとは、珍しいな。何かあったのか?」
「またかよ……」
「また、とは?」
「いや、なんでもねえ。ちょっと寝起きに飲み物が欲しくて寄ってみたんだ。つうか、アレクやザビーネも来てるんだな」
「ああ。彼女の様子や働き具合を見ようと思ってな」
「様子を見るではなく、彼女に会いに、では?」
「まあ、そうともいえるか」
「えーー、アレクもそうなの?」
領主たちがそんな会話をしていると、食堂内に新たな足音が響きわたる。全員が振り向いたその先には――。
「お待たせいたしました、皆様。私、マインスターが給仕いたします。……おや、マエル様がこんな夜の帳から食堂にいらっしゃるとは珍しい。それに何やらがっかりしたご様子で……何かありましたかな?」
「……いや、別に」
「ねえ、それよりあの娘はどうしたの? いつもなら真っ先に彼女が給仕してくれるんだけど」
「エドワードから頼まれた仕込みに手間取っている様子で……それで急遽代わりに私が給仕に参ったという次第です。ではアレクサンドル様はコーヒーでしたな……」
領主たちは目的の娘が給仕に来なかったことを残念に思いながらも、マインスターの用意した飲み物を堪能していった。マエルも出されたコーヒーを飲んだが、なんだか拍子抜けしたような味だった。そして飲み終わった領主たちは、ひとりまたひとりと席を去って行く。
「――では、そろそろ仕事を始めるとするか。ザビーネ、執務室に来てくれるか」
「承知しました」
「天気が良いみたいだから星でも見に行こうかな」
「俺は館外へ出かけてくる。帰りは遅くなるだろう」
そして、特にすることもなかったマエルだけが食堂に残された。1日の始まりをあの娘の顔を見てから過ごせたら……というささやかな願いも叶えられず、さて、これからどうしようかと考えていた時だった。戸が開く音にマエルがヤレヤレ今度は誰だよ、と思いつつ振り向くと。
「皆さん! お飲み物はもう――え、マエルさん!? 食堂に来てくれたんですか?」
「お……おう。あんたが給仕してるとか聞いたんでな。様子を見に来たっていうか……」
「はい。最近は、目覚められた領主の皆様にお飲み物を用意する仕事を任されているんです。……先程は仕込みを手伝っていたため申しわけありませんでした」
「ああ、いいって。ちゃんと働いてるならそれで」
「あの、よろしければ新しいお飲み物を用意します。何かご希望はあるでしょうか」
「そうだな……あったかいスープとかあるか?」
「スープ……ええとフランスだと……コンソメでしょうか、ポタージュでしょうか?」
「……あんた、フランス料理がわかるのか?」
「はい、今、ちょうどエドワードさんから習っているところなので」
「そんじゃあ、ポタージュで頼む!」
「ふふっ、承知しました。すぐにご用意しますね」
笑顔で頷き、パタパタとキッチンに向かって駆けていく彼女の後ろ姿を見ながら、マエルは思った。
「……起きがけに食堂に来るのも悪くねえな」
こうして、彼女がプルガトリウムの館に来てからというもの。しばらくぶりに領主全員が食堂に集うようになったという。
END