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薄桜鬼異聞 ベレジンスキーの魔女

スペシャル

SHORT STORY

Vol.01 アレクサンドル・シラージ
領主の仕事

「では、領主会議を始めるとしよう」
「承知しました」
「もうそんな時間か、構わないから先に始めてていいぜ」
「ねえ、お茶はまだーー?」
「議題次第によっては席を外していいか」
「……会議を始めるぞ!」

 ベレジンスキー辺境伯領は5人の領主によって統治されている。対外的な代表は伯爵の地位を得ているアレクサンドルだが、この館の領主と呼ばれる5人の吸血鬼たちはそれぞれ違う真祖の血統の現当主でもあることから、彼らは血筋から見ると同格という立場にある。
(吸血鬼によって長く生きていたり、多くの血を得ていたりなどの強さに差はあるものの、血脈の派閥の長という立場としては同格と言える)
 そんなこともあって5人は同格の領主(対外的には貴族)となり、この辺境伯領の統治についても合議制が取り入れられている。
 とはいえ、面倒な書類仕事はアレクとザビーネの仕事なのだが。

 そしてこの日も、普段はアレクがこもっている執務室に残りの4人の領主が呼び出され、領主会議が始まったのだった。

「――というわけで、今日の議題は領内の小麦の刈り入れについての問題だ。昼日中に刈り入れ作業できる人数を増やしてほしいという住民からの嘆願がきている。何か解決のための意見があれば聞きたい」

 アレクからの議題に誰も答えようともせず、それぞれがお茶を飲んだりぼんやりしたり、欠伸をしたりする始末。そんな状況を見ていたアレクがマエルを見やった。

「では、年長者としてマエルの意見はどうだ?」
「……は? オレか? あーー、そうだな……うちの領内って、あれだろ。住民の半分が吸血鬼なんだから、そいつらが夜に刈り入れすればいいだけじゃねえのか」
「これまではそうしていたんだが、夜間に刈り入れをすると水分が多く含まれるため、やはり昼日中の内に刈り入れをした方が良い収穫になるらしい。だから、昼間に刈り入れをしたいという嘆願がきてるんだ」
「そっか。じゃあ、昼も働けばいいんじゃね?」
「力の強い吸血鬼ならまだしも、住民レベルの吸血鬼だと昼日中に外に出ただけで倒れ込んでしまう」
「うちの住民ってひ弱だな――」

 そう答えたマエルが、さほど興味なさそうに椅子の背へふんぞり返る。隣に座っていたラファエルが紅茶を飲むのを止めて、得意そうに答えた。

「ねえ、あれじゃない? 小麦が採れなくなるんでしょ? じゃあ、パンがなければケーキを食べればいいじゃないってそんな話があったよね」
「……ケーキも小麦から作られるから、小麦がなければケーキも作れないことになるが、それはどうする?」
「あーー、そうなんだ。……え、じゃあ、これを言いだした人ってそんな事も知らなかったのかな」
「ははっ、おまえもな」
「知ってたよ。知ってたから言ったんだって」

 マエルとラファの言い合いを聞きながら、アレクのこめかみがすこしひくつき始める。それを見たザビーネがコホンと喉を鳴らし、ジョナスに話を向けた。

「ジョナから何か意見はありませんか?」
「簡単なことだ、昼に働ける人間を外から雇えばいい」
「もっともな意見ですが、ここは吸血鬼と人間が共存する特別な領地です。領外の人間を簡単に入れることはできません」
「では、ザビーネならどうする?」
「ふふ……私なら近年発明された蒸気の力で刈り入れができる機械を取り寄せようかと考えています」
「それはいい。すぐにでも取り寄せよう」
「いえ……それがまだ構想段階らしく……開発には数年かかるとか……私の意見はすこし先の話になりますね」
「俺たちにとって数年など僅かな時間だがな」

 ふたりのやりとりを聞いていたアレクが、小さくため息を吐いた。

「皆の意見は出そろったか? では、俺から提案をしよう。昼日中の働き手が欲しい、という住民からの要望だったな。領内に昼間働ける吸血鬼は足りず、外から人間を雇うことも難しいという意見だが、俺がみたところそれを解決できる方法がある」
「ほほう、聞かせてくれよ」
「昼間に動ける吸血鬼で昼の刈り入れを手伝うことにする。ちょうどここに5人ほど居るようだしな」
「それって……もしかして、僕たちのこと?」
「昼間の仕事か。まあ、できなくもないんだが、1週間も続けると生活リズムが狂って嫌なんだよな」
「小麦の刈り入れか。やれと言われればやるが、俺たちがやらなければならない仕事か?」
「力仕事は向いてないんでパスします」
「誰もラファに力仕事なんか期待してないって。代わりにクドラクたちが働くだろうぜ」
「僕以上に昼日中は出てこないと思うんだけど……」

 マエルとラファエル、そしてジョナスも不満を口にするなか、ザビーネが眼鏡のブリッジをくいっと人差し指で支えながら呟いた。

「では、皆さんにはアレクが出した以上の代案があるというのですか? 私たちは領主として、住民と領地を守るという使命を果たさなければなりません。その答えはいかが?」

 3人が顔を見合わせつつ、肩をそびやかす。そして、しょうがないなと言う顔つきでマエルが答えた。

「わかった、やるよ。でも、オレたちだけってのはちょっとなあ……そうだ、この館で昼に働ける奴、全員を駆り出そうぜ。クレイヴンとレスタト、それにエドワードも。そうすりゃ昼の作業も1日交代とかでできるだろうし」
「ああ、それがいい」
「もちろん、マインスターもね」

 ラファエルの差し向けた言葉に、部屋の隅で話を聞いていたマインスターが慌て始める。

「なんと……私めが昼日中の作業を? しかも刈り入れですと? この老僕にそのような大役が務まるでしょうか……ヨヨヨヨ……」
「おいおい、マインスターってさ、老僕とか言ってるけど、オレより若いんだぜ」
「マエル様、それは言わない約束ですぞ。今は見た目の話をしているのですから」
「じゃあマインスターがやるなら僕も手伝っていいかな」
「決まりだ。領主にそこまで言わせては執事の名が泣くぞ」
「ははは……仕方ありません。では、皆さまの夜食の準備もしなければなりませんな」
「それ、夜食なの? 昼食? あれ? なんて言えばいいのかなー」
「それと天気がいいときのために、日よけのマントか何かを用意してほしい」
「成る程、承知いたしました」

 皆のやりとりを聞いていたアレクがうれしそうに口元を緩める。それを見ていたザビーネもつられるように笑みを洩らしつつ、語りかけた。

「話がまとまったようでなによりです」
「ああ。なんだかんだ言ってマエルがやる気になってくれると、皆もそう動いてくれる。正直、助かるな」
「さすが年長なだけはありますね」
「そういうザビーネも、マエルが動いてくれると思っていたのだろう?」
「……最近は生きる事に飽いてきたと口にするようになって心配していましたが、杞憂だったようです」
「まだまだ、頼りにさせてもらおう。ラファもジョナもなんだかんだ言って、領主の自覚が出てきたようでうれしいな」

 そう言うとアレクは微笑んだ。やがて姿勢を正すと、皆に向かって口を開いた。

「昼日中の刈り入れの一件、皆の協力により対応できそうでなによりだ。感謝する」
「まあ、いいって事よ。そんじゃ今日はこの辺で……」
「では次の議題に移るとしよう!」
「え……まだあるの!?」
「悪いが俺は仕事がある」
「話を続けてください、アレク」
「次の議題は川の氾濫で困っているとの住民からの――」

 こうしてベレジンスキー辺境伯領の領主会議は、真夜中を過ぎても続くのだった。

END
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