目次
魔法以上の力
2013.4.15
――マーリンの部屋――
【コン、コン】
マーリン
はーい、入っていいよ。
【ガチャ】
ランスロット
……失礼します。
ガウェイン
おう、邪魔するぜ……。
マーリン
おや?
二人して私の部屋にやってくるなんて珍しいね。
何かあったのかい?
ガウェイン
……いやぁ、別に大したことじゃねえんだけどよ、
実は……その……ほら、ランスロット。
ランスロット
実は……
マーリン殿に直して頂きたいものがあるのですが……
マーリン
直してもらいたいもの?私にかい?
ガウェイン
お、おう。
これなんだけどよ……。
マーリン
ん?壊れたぬいぐるみ?
……君達そんな趣味あったんだぁ。
ガウェイン
ちっげーーよ!!
んな趣味ある訳ねーだろっ!
ランスロット
実は先程、城下の見回りに出ていたのですが
小さな女の子が一人で泣いていまして……。
ランスロット
どうしたのかと聞くと、そのぬいぐるみが死んでしまったと言うのです。
ガウェイン
ただ腕が取れただけみてぇなんだけどよ。
ランスロット
死んだわけではない、壊れただけだとあやしていたのですが
どうにも泣き止まなくて……。
ガウェイン
そいでつい、俺らが直してやる!って、言っちまったんだよ。
マーリン
ふーん。
それで、私の魔法で直して欲しいと。
ランスロット
……そうです。
マーリン殿、お願いできますか?
ガウェイン
頼む!おっさん!
おっさんの魔法ならきれいに直せるだろっ?
マーリン
ふぅん……。
まぁ、私の魔法なら元通りにできるだろうけど、嫌だ。
ランスロット&ガウェイン
えぇっ!?
マーリン
魔法になんて頼るものじゃないよ。
仮に私の魔法で直したとして、その女の子にはなんていうつもりだい?
魔法で直した、って言うのかい?
ランスロット
それは……。
ガウェイン
むぅ……。
マーリン
魔法ならなんでもできる、なんて思ってほしくはないんだよ。
実際に出来る事は限られてるしね……。
とにかく、この件には私の魔法は使わないから、
君たちでなんとかするんだね。
ガウェイン
……わーったよ。
ランスロット
そうだな、元々私たちが引き受けたことだ。
私たちの手でなんとかするほかあるまい。
マーリン
そうそう、それがいいよ。
用が済んだら出て行っておくれ。
部屋に男を長居させる趣味はないんでね♪
【バタン】
――王城廊下――
ガウェイン
……だとよ。
ランスロット
私たちで何とかしろ、か。
ガウェイン
お前裁縫なんかできるか?
ランスロット
私が出来るわけないだろう?
ガウェイン
だよなあ……。
ランスロット
やはり誰かに頼むほかないんだろうか。
ガウェイン
っつっても、誰に頼むんだよ。
ランスロット
姫王、もしくは侍女のマリーあたりか?
ガウェイン
おいおい、この可愛いお人形直してくれって頼むのか?
キャラじゃねえだろ、俺らの。
ランスロット
それは……そうだが、事情を話せば手を貸してくれるとは思う。
ガウェイン
それはそれでなんか恥ずかしいんだよなあ。
しかし、もうそれしか……むう。
ランスロット
……うーむ。
ボールス
おや、お二人ともお揃いでどうかしましたか?
随分難しい顔をしていますが……。
ガウェイン
おう、ちょっとな。
……って、待てよ。
ガウェイン
(おいランスロット、ボールスって裁縫出来そうな感じしねえか?
なんかこう、イメージ的に)
ランスロット
(確かに……ボールスなら裁縫ができてもおかしくはない)
ボールス
……?
どうしました?
ガウェイン
いや、その、ちょっと聞きたいんだが、
ボールス、裁縫が得意だったりしねえか?
ボールス
裁縫ですか……。
まぁ、それなりにはできますよ。
ランスロット
おおっ!
ガウェイン
でかしたっ!
ボールス
えっ、いきなりどうしたんですか?
ランスロット
実は……。
――説明中――
ボールス
……なるほど。
ガウェイン
ってわけでよ、この人形直してくれねえか?
ランスロット
ボールス、私からもお願いする。
ボールス
うーん、このくらいなら私も直せるとは思いますが……
ボールス
(しかし、それではマーリン様が敢えて断った意味がなくなってしまう……
とはいっても、人形は直してあげないと女の子が可哀そうだし……
あ、そうだ!)
ボールス
ですが、直しません。
ランスロット&ガウェイン
えぇっ!?
ボールス
私もマーリン様と同じで、
お二人が直してあげるべきだと思うんです。
ガウェイン
そうしたいのは山々なんだが……裁縫はなあ。
ランスロット
うーむ。
ボールス
そうだよね。
だから、一緒に直そう。
私が教えてあげるから。
ランスロット&ガウェイン
一緒に!?
ボールス
ああ、そうだよ。
私と一緒にやってみようよ。
その女の子のために、ね?
ガウェイン
……だな。
おっしゃ!やろうぜランスロット!
俺らもやればできるってとこを見せてやろうぜ!
ランスロット
ガウェイン……。
ああ、やってやろう!
ボールス、教授の方、よろしく頼む!
ボールス
任せておいて!
――騎士の塔広間にて――
ボールス
さぁ、裁縫道具を持ってきたよ。
早速始めようか!
ガウェイン
……お、おう。
ガウェイン
(勢いでやるとか言っちまったけど、ほんとに俺らでできんのか?)
ランスロット
(私たちは仮にも円卓の騎士なのだ。
ボールスに教えてもらえばこんなことは容易いはず……。)
ボールス
ほらほら!早く針に糸を通して!
ガウェイン
げぇ……こんなちっせー穴に糸なんか通るのかよ……。
ランスロット
むむ……これはかなり、困難を、きわめそうだ……っ!
モードレッド
あれー?珍しい3人組だね?
何してるの?
ボールス
ふふ。2人に裁縫を教えているんだよ。
モードレッド
裁縫!?
へぇーーーーっ!珍しいこともあるもんだ!
明日は雪でも降るんじゃないの?
ガウェイン
だぁーーーー!
もう!うっせーな!
気が散るから話しかけんじゃねぇよ!!
ランスロット
この穴に……糸を……(ぷるぷる)
モードレッド
あははは!こりゃ面白いや!
ここでちょっと見ていこう。
ボールス
いいけど邪魔はしないでくれよ、モードレッド。
モードレッド
オーケーオーケー。
今時、男だってそれくらい出来なきゃモテないからなあ。
ね、ガウェイン?
ガウェイン
うるせぇ……針で刺されたいのかテメェ……。
ランスロット
よし……っ!!!!糸が通ったぞ……!!
次は……。
ボールス
たまにはこういうのもいいですねぇ。ふふ。
――数時間後、城下――
ガウェイン
……なぁ、これで本当に大丈夫なのか……?
ランスロット
……私も不安だが、ボールスがこれなら大丈夫だと言ったのだ。
やることはやったのだし、彼を信じよう。
女の子
……。
ガウェイン
随分待たせちまったみたいだな……。
ランスロット
ああ……。
さぁ、早く行ってやろう!
ガウェイン
よ、よし!
ガウェイン
ゴホンッ!
よ、よぉっ!待たせたな!!
女の子
あ、騎士さま……。
あたしのキャサリンは……?
ランスロット
……キャサリンという名なのか。
ランスロット
もう大丈夫だ、キャサリンは生き返ったぞ。
女の子
わぁ!キャサリン!
騎士さま……ありがとう!
ガウェイン
お、おう!
俺ら二人で直したんだぜ!
スッゲーだろ?
女の子
うん!ふたりの騎士さま、ありがとう!
マーリン
……ふふふ。
マーリン
やっぱり二人に直してもらって良かったよ。
魔法に頼らず、自分たちで解決する。
あの二人なら、その気になれば魔法以上の事が出来るはずなんだから。
ボールス
ガラにもなく、いいこと言いますね。
マーリン
ガラにもなくって……。
失礼しちゃうな、もう。
ボールス
ふふ、冗談ですよ。
マーリン
さぁて、私は城下の酒場で一杯引っ掛けようかなあ。
良いことした後だから、お酒が美味しいよ、きっと!
ボールス
では、私もお供しましょう。
マーリン
いいね、行こうか。
我らが円卓の騎士に乾杯、ってね♪