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狂将のとある一日
2013.4.1
ルキウス
私はルキウス・ティベリウス。
今回はこの私がお相手しよう。
ルキウス
諸君、今日が何の日か知っているかな?
そう、エイプリルフールだ。
今日この日は嘘偽りで他人を欺く事が許される日なのだよ。
ルキウス
そこで、だ。
私も愚かな民達を欺いてやるべく、街に繰り出そうと思う。
特別に同行することを許してやろう。
付いてくるがいい、くくく。
――キャメロット市街――
ルキウス
さて、どんな風に愚民どもを欺いてやろうか。
普通にやっては面白くないからな。
ルキウス
ん?
あそこに大きな荷物を持った老婆がいるな。
大通りであの荷物では萎れきったあの肉体にはきついだろう。
……くくく、良いことを思いついたぞ。
そこで見ているがいい。
ルキウス
ご婦人、ごきげんよう。
見た所、かなり大きな荷物に苦戦されているご様子。
よろしければ私がその荷物を運ぶのを手伝いましょう。
老女
いやいや、そんな悪いよ。
わたしゃ大丈夫だから。
ルキウス
遠慮などいらないのですよ。
困ったときはお互い様、というではありませんか。
老女
……そうかい?
じゃあ、この通りを抜けるところまでお願いできるかい?
ルキウス
ええ、喜んで。
よいしょっと!
――通り出口――
ルキウス
ここでよろしいですかな、ご婦人。
老女
ああ、ここで大丈夫。
本当に助かったよ、ありがとうねえ。
ルキウス
いえいえ、当然のことをしたまでですよ。
では、私はこれで。
ルキウス
……くくく。
何故こんなことをするのか、と聞きたそうだな?
お前の頭では分からないだろうから教えてやろう。
ルキウス
あの老婆は私の事をどう思ったと思う?
いい人だ、などと思ったのではないかな?
それこそが私の狙いだ。
ルキウス
自分で言うのも何だが私はいわゆる極悪人でね、
いい人とは正反対の人間だ。
それをあの老婆はいい人だ、などと思ってしまったわけだ。
ルキウス
私はあの老婆を完全に欺いてやったというわけだ。
ははは!まさに今日の趣旨にぴったりだろう?
さて、どんどん愚かな民を欺いてやるとしよう。
ルキウス
次はどいつを偽りの迷宮へと誘ってやろうか……。
む、あそこに泣きじゃくっている愚かなガキがいるな。
ふむ、純心無垢な子供を欺くというのも悪くない。
行ってみるとしよう。
ルキウス
少年よ、どうかしたのかな?
少年
びぃぃぇぇぇぇん!!
えぐえぐっ!
ままぁぁぁぁ!
ルキウス
ふむ、母親とはぐれてしまったというところだろうか?
少年
……うん。
ままぁぁぁぁぁっ!
ルキウス
少年よ、お前も男ならそんな事で泣くもんじゃない。
立派な騎士になれんぞ。
少年
き、し?
僕は、えぐっ、大きくなったら騎士に、うぐっ、
なるんだ。
ルキウス
そうか……。
だったら、泣き止むのだな少年。
私が一緒にお前の母親を探してやろう。
少年
えっ、ほんとに?
でも、しらないおじちゃんにはついていっちゃいけないって……。
ルキウス
(おじちゃん、だとっ!?クソガキがっ!
い、いや、落ち着け!!受け流せ!!冷静になれ!!)
ルキウス
私はおじちゃんではない……。
お兄さんだ。
それに、私は騎士だ。
騎士ならば信用できるだろう?
少年
きしさま?
ルキウス
そうだ。
では、少年よ行くぞ。
少年
うわぁ!
な、なにするの!?
ルキウス
この方が周りが見やすいだろう?
探し物も早く見つかるというものだ。
少年
そうだね!
ありがと、おっちゃん!
ルキウス
(このガキ、おっちゃんなどと……。
本来であれば八つ裂きにしてやるところだが、それでは今日の趣旨と異なる。
命拾いしたなクソガキめ!)
ルキウス
おっちゃんではない。
お兄さんだ。
では、その辺りを回ってみるか。
少年
うん!
――数分後――
ルキウス
ふむ、見つからんな。
あちらもお前の事を探していると思うのだが……
???
マルコー!!
マルコ
あ、ママだっ!
ママ!ここだよ!
母親
あぁ、マルコ……。
心配させて。
マルコ
ごめんよ。
でも、このおっちゃ……
じゃなくて、お兄さんがママを探すのを手伝ってくれたんだよ。
母親
あらまぁ、そうだったんですか。
息子がご迷惑をお掛けしました。
ありがとうございます、騎士様。
ルキウス
いやいや、騎士として当然の事をしたまでですよ。
礼には及びません。
さて、親子の団らんを邪魔しては悪い。
私は失礼するとしよう。
マルコ
えー、おっちゃ……にいさん、行っちゃうの?
ルキウス
(言い直すならきちんと言い直せ!このバカガキがぁ!)
ルキウス
お兄さんも忙しいのでな。
まぁ、またいつか会うこともあるだろう。
母親と達者でな。
ルキウス
(また会ったとしても、その時は俺の剣がお前に向く事になるがな、くくく)
母親
本当にありがとうございました。
ほら、マルコもきちんとご挨拶して!
マルコ
ばいばいー、お兄さん。
ルキウス
ふぅ、慣れない事をして疲れてしまったな。
しかし、あの親子も私の事をいい人だと信じて疑っていない様子。
敵国の将軍だとも知らずにな、はははっ!
ルキウス
ふぅ、ここまでキレイに騙されてくれるとは、今日の作戦は大成功だったな。
お前も運がいいぞ?
今日一日私と過ごすことができたのだからな。
お前が望むなら側室にしてやらなくもないぞ?
ルキウス
ふっ、本気にしたのか?
馬鹿な奴め。
今日が何の日か思い出してみるんだな。
さて、国に戻るとするか。
ルキウス
また会う時は敵同士かもしれんが、
その時まではせいぜい生き延びるがいい、娘よ。
今日のよしみで俺の剣で斬ってやるぞ。
はははっ!!
では、失礼する!