オランピア
「もしも貴方が全く長に興味はないと
言うのなら、道摩を説得するつもりだった」
オランピア
「ただでさえ貴方は忙しい人」
オランピア
「きっと……持てる時間の全てを
医療に捧げたいと考えているはず」
玄葉
「……っ」
オランピア
「でも朱砂達と島を変えていきたいのよね?
そう願う貴方も……いるのよね?」
オランピア
「なら諦めることない」
オランピア
「長になって、玄葉」

彼は暫く黙り込んだ後──いきなり私の額を
指でつついた。

オランピア
「!?」
玄葉
「流石、俺の中で一番の名言を残した奴は違うな」
オランピア
「め、名言?」
玄葉
「『後ろを向いていると全力で走れない』」
オランピア
「……っ」

そう言った玄葉の眼差しと声がひどく優しくて、
いきなり照れくさくなる。

玄葉
「あんたは本当にいつも光の中にいる」
オランピア
「……そう?」
オランピア
「でも私なりに落ち込んだりはしてるのよ?」
玄葉
「この間は最悪だったよな、俺。
道摩殿に赤渦の災のことを聞かされた時」
玄葉
「あんただって傷ついたはずだ。
そんな時こそ俺が側にいるべきだったのに」
玄葉
「だが、仇の俺に慰められても嬉しくないよな、
なんて考えて……逃げるしか出来なかった」
オランピア
「あの時はああするしかなかった。
私だって混乱していたし」
玄葉
「こんな情けない俺を……見捨てないでくれて
ありがとな」

彼の指が私の顎を捉え──今度は額に口付けられた。

オランピア
「……!」
オランピア
(そんなに私の額が好き?)
オランピア
(私は……唇でも良かったのよ?)

すると彼はまるで私の心を読んだかのように笑む。

玄葉
「唇だと、このままここで押し倒しそうだから」
オランピア
「……!」

気恥ずかしくなり、
私は帽子を被り直すふりで俯く。

オランピア
(私は……この人が好き)

何度でも、気付かされる。
自分にとってどれだけ大切な存在か。