オランピア
「お待たせ、今日のスープは魚なのね」
ヒムカ
「うん、昨日は沢山釣れたから」

卑流呼様がここでこんな話をしているなんて、
島のみんなは知らない、知らなくていい。

砂の上に美しい布を敷き、
小さな木のテーブルを置く。

並んでいるのはパンと時計草の実、スープ。

オランピア
「ではいただきます」
ヒムカ
「いただきます」
オランピア
「ふふふ」
ヒムカ
「どうしたの、思い出し笑いなんかして」

ご機嫌で焼きたてのパンにかぶりつく私を、
彼が覗き込む。

骸の浜で過ごした朝、こうして並んで海を見ながら
朝食をとるのもまた楽しみの一つだった。

オランピア
「さっきね、貴方がパンの研究をし始めた時のことが
浮かんだものだから」
ヒムカ
「あはは、今頃?」
オランピア
「もうすっかり立派なパン職人ね」
ヒムカ
「懐かしいな」

彼も、自分が焼いたパンをちぎりながら微笑む。

ヒムカ
「人間になってすぐに、
お腹が減るということを理解した」
ヒムカ
「それで……──貴女がここへ泊まった時、
目覚めた時に美味しいものを沢山食べて
欲しいなって」

そんなふうに考える彼の優しさが愛しい。
楽しげに生地をこねる姿も好きだった。

オランピア
「パンだけでなく、酵母の種類も増えてすごい」
ヒムカ
「そろそろ桃から作った酵母も完成するよ。
少し手間がかかったけど、絶対に美味しいから
焼き上がりに期待して」
オランピア
(本当に……『人』が楽しそうで嬉しい)