朱砂
「少し前に目が覚めたので、
スープを煮ながら寝顔を眺めていました。
いい夢だったようで何よりです」
オランピア
「ええ、舞いを教えてもらうことになった時のよ」
朱砂
「それは可愛かったでしょうね。
はしゃぐ姿が目に浮かびます」
オランピア
「でも……どうして今頃?
ずっと思い出さなかったのに」
朱砂
「もう少し詳しく内容を伺っても?」
オランピア
「本当に楽しい夢だったのよ。
生き水の前で私と母さんが話していてね」
オランピア
「『これは神様とお話するための舞いなのよ』って」
朱砂
「なるほど、陽の女神アマテラスへの崇敬を、
幼い貴女にそう説明したわけですね」
オランピア
「……小さな頃の夢なんて久しぶり」
オランピア
「赤渦の災があって、
抜け落ちていた記憶も多いけど……」
オランピア
「『心を込めて舞いなさい』という教えは
ずっと私の中にあった」
朱砂
「貴女の舞台を見ていると、それは感じますよね。
きっと神も嬉しいだろうなと」
オランピア
「うふふ、貴方に舞いを褒めてもらうのも
新鮮で嬉しい」

すると彼は私の髪に指を絡め──

朱砂
「半年後の貴女の誕生日に、
婚儀を執り行うのは如何です?」
オランピア
「……!?」

何の前触れもなく、そう切り出した。

朱砂
「はい明日、というわけにもいかないでしょう、
色々と支度がありますからね、特に女性は」
オランピア
「それはまぁ……きっとあるのでしょうね、色々と」

あれだけ待ち望んでいた言葉なのに、
驚きが先に立って素敵な返事が出てこない。

朱砂
「突然で申し訳ありません、
忘れていたわけではなかったんですよ」
オランピア
「そんなこと思ってないわ。
お互い色々と慌ただしかったし」

──昨夜ここへ来た時、
彼は遅くなったことを詫びた。

ここ数日ずっとコトワリや軍がざわついているのは
私でも分かる。

オランピア
(理由は決まってる。流れ着いた……)
朱砂
「きりがないな、と思いまして」
オランピア
「…………」
朱砂
「島のことが一段落ついたら、と考えてはいました。
でも一つ叶えればまた次の一つが出てくる」
朱砂
「このままでは永遠に
貴女の夫になれそうもありませんから、
このあたりでどうかなと」
オランピア
「私達には野望が沢山あるものね」

確かに、婚儀のことを私から切り出そうと昨日、
覚悟はした。

オランピア
(まさか……貴方から、なんて)
朱砂
「では早速ですが、道摩殿に伝えていただけますか?
俺は慈眼に相談します」
オランピア
「ええ、間違いなく伝えます」