天女島はいたって平穏だ。
イロハバナはとうとう浜辺まで広がり、
白い花をあちこちに咲かせている。
その瞬間。
すぐには動けなかった。
早く助けなければ。
そう思うのに足が前に進まない。
私は何を見ているんだろう。
そんなことあるはずがない。
そのひとの髪は私と同じ色をしていた。
この海ではもう、
私以外に存在するはずのない色。
深呼吸し、目をぎゅっと閉じてまた開く。
駆け寄ってそのひとを起こそうとし──
思わず、彼から手を離しかけた。
有り得ない。
有り得るはずない。
【白】の生き残りは私だけ。
ましてや男性など──
でも、言葉は返らない。
私はかなり混乱していたと思う。
有り得ないことを集めたような『彼』が、
また信じられなかったから。
彼の心臓の音を確かめようとし──
今度こそ、彼から手を離してしまった。
そのからだが、力なく砂の上に落ちる。
私は恐る恐る唇に顔を寄せるも──
全く吐息の気配がない。
冷たくはなかった。
まるで眠っているようだった。