オランピア
「うーん……やっぱりただの思い過ごしかしら」
オランピア
(今朝、バルコニーから島を眺めていて
妙な胸騒ぎがしたのに)

天女島はいたって平穏だ。

イロハバナはとうとう浜辺まで広がり、
白い花をあちこちに咲かせている。

オランピア
「何か起きたのかと思って来てみたけど、
全く異変はない……わよね?」
オランピア
「生き水はいたって静かだったし、
太陽だってあんなに眩しく輝いてる。
海だって……」
オランピア
「……!?」

その瞬間。
すぐには動けなかった。

早く助けなければ。
そう思うのに足が前に進まない。

オランピア
「う、嘘……」

私は何を見ているんだろう。
そんなことあるはずがない。

オランピア
(お、落ち着いて……まずは深呼吸……)
オランピア
「夢じゃ……ない……?」

そのひとの髪は私と同じ色をしていた。

この海ではもう、
私以外に存在するはずのない色。

オランピア
(見間違い……じゃなくて?)

深呼吸し、目をぎゅっと閉じてまた開く。

オランピア
(やっぱり……白い)
オランピア
「とにかく……助けなきゃ……っ」
オランピア
「あの! 大丈夫ですか?」

駆け寄ってそのひとを起こそうとし──

オランピア
「きゃ……!?」
オランピア
(男性……?)

思わず、彼から手を離しかけた。

有り得ない。
有り得るはずない。

【白】の生き残りは私だけ。
ましてや男性など──

オランピア
(とにかく……今は助けないと……っ)
オランピア
「目を開けて下さい! しっかりして!」

でも、言葉は返らない。

オランピア
「お願い、気付いて!」

私はかなり混乱していたと思う。

有り得ないことを集めたような『彼』が、
また信じられなかったから。

オランピア
「……駄目だわ、
 早く医療院へ連れて行った方がいいわね」

彼の心臓の音を確かめようとし──

オランピア
(……え?)

今度こそ、彼から手を離してしまった。
そのからだが、力なく砂の上に落ちる。

オランピア
(もしかして……息……してない?)

私は恐る恐る唇に顔を寄せるも──
全く吐息の気配がない。

オランピア
「……脈も……心臓の音も……ない?」

冷たくはなかった。
まるで眠っているようだった。

オランピア
「あなた……──死んでるの?」