『七夕せんきょ(?)の巻』
忍者選挙戦!!
――――ごそごそ、ごそごそ
咲助 「えーと……んーと……」
大介 「おや? 珍しいね、咲助が筆を持って書きつけをしているなんて」
鎌清 「咲助、勉強で分からないところがあれば僕が教えますよ。どれ――」
――――ひらり
大介・鎌清「「…………“俺が好きなのは、あいつです”…………!?」」
咲助 「わわっ!? な、なにすんだ、お前ら! 勝手に人の手元覗き込むなよ!!」
鎌清 「い、いえ、咲助、その、これは――……?
どうして短冊にこんなことを書いているのです?」
大介 「もしかして、七夕の短冊かい? それにしては文章がおかしいような……」
鎌清 「そもそも――」
――――ばさばさばさっ
大介 「……大量の短冊じゃないかい!?」
鎌清 「全部に同じこと書いていますね!? “俺が好きなのはあいつです”と、何十枚も……!」
咲助 「ちぇっ。見られちまったなら仕方ねーな。
……いいか? これは幼馴染のお前らにだけ話すんだからな」
大介・鎌清「???」
咲助 「七夕では、短冊に好きなやつの名前を書くんだろ?
その枚数が多ければ多いほど勝てるらしいな」
大介 「なんの話だい!?」
鎌清 「意味が分かりません!!!!! だいたい、勝つとはどういう意味ですか!?」
咲助 「短冊で“とーひょー”して勝てば、一番になれるはずだろ!
あっ、べ、別に俺はあいつの一番になりたいとかじゃねーけど――」
大介 「それは選挙の話じゃないかな!?」
鎌清 「それは選挙の話です!!」
咲助 「……へ? “せんきょ”と“七夕”って違うのか?
前に学級委員長のせんきょでは、同じような短冊使ってただろ?」
大介・鎌清「な――――」
咲助 「この短冊にいっぱいあいつの名前を書けば、
鎌清が学級委員長選で勝ってたみたいに、
俺もあいつをめぐる戦いで勝てるはずだ!」
大介・鎌清「………………!!」
咲助 「…………。なんだよ、二人して黙って……。
なぁ、もしかして違うのか?」
大介 「ち、違うんじゃないかな?」
鎌清 「違います!!」
幸影 「違うに決まってるでしょ……!」
鎌清 「……え?」
大介 「!」
咲助 「――――真田!? お前、いつのまに――」
幸影 「真田先生、でしょ。猿飛」
――――ぽかっ
咲助 「痛ぇ! これ以上ばかになったらどーしてくれんだよ、ばかっ」
幸影 「心配しなくても、それ以上馬鹿にはなりようがないよ。
……まさか学級委員長選挙の投票用紙と
七夕の短冊を同じと思ったなんて……」
咲助 「だって短冊が一緒――」
幸影 「はぁ。俺はお前に社会常識から教えなきゃいけないの?
ここは幼等部じゃない、高等修練院だよ?」
咲助 「でも――」
――――がらっ
蔵人 「……咲助。それは投票用紙ではない」
咲助 「あっ、蔵人! どうしたんだ?
忠人と帰ったんじゃなかったのか」
蔵人 「忠人に補習が入ったからな……。
すこし、待つことにした。
……教室に戻ってきて、お前たちの会話が聞こえたんだ」
咲助 「そっかー」
幸影 「……忠人君の担任も苦労してるみたいだな……」
蔵人 「それより咲助、さっきの話だが、七夕と選挙は――」
鎌清 「待ってください、蔵人!
咲助に教えるのは僕の役割ですよ!!」
蔵人 「…………!」
大介 「鎌清は昔から咲助に教えるのが好きだね?」
鎌清 「いいですか、咲助。
七夕の短冊には願いごとを書くのが一般的です。
それは織女――つまり織姫に機織りが上手くなるよう
お祈りをしたことが発端なんです」
咲助 「ああ、そういえば七夕は“お願いごと”だったか。
たしかに“とーひょー”とは、ちょっと違ってたな」
幸影 「選挙だとしても、勝つなら自分の名前を書かなきゃだめでしょ」
蔵人 「たしかに……」
大介 「咲助が間違うのも仕方ないと思いますけどね?
この七夕用の短冊、学級委員の推薦用紙によく似ていますし。
咲助、これはどこにあったんだい?」
咲助 「短冊か? それは二年一組の教室に――――」
――――がたがたがたっ!!
半蔵 「自分の短冊はどこだ……!」
咲助 「服部!?」
――――がらっ
秀虎 「半蔵、慌てずとも良いだろう。
幸い霧隠忠人にもらった短冊はまだまだあるのじゃ」
鎌清 「豊臣さんも!?」
――――ひょこり
忠人 「そうですよー。
傘張り内職で余った紙でつくったものですし
気にしないでください!」
半蔵 「そういうわけには……っ」
蔵人 「忠人まで!?」
忠人 「あっ、兄ちゃん、お待たせ!」
大介 「これはまた……ずいぶん沢山そろったね?
一体どうしたのかな」
――――がらり
義家 「――服部が短冊を無くしたって騒ぐから連れてきてあげたんだよ。
ついでに霧隠弟も」
咲助 「宇喜多が!? 嘘だろ……!」
忠人 「ほんとですよ! えへへ、宇喜多先輩、ありがとうございました!!」
義家 「たいしたことしてない。
でも、今度迷子になっても助けないかもよ。
自力で帰れるようになって。でないと、面倒すぎる」
忠人 「ええっ、そうなんですかぁ!?
……う~ん、じゃあ僕、気を付けますねっ」
蔵人 「忠人、また修練院の中で迷子になったのか……!
――宇喜多先輩、済まない。
弟が世話になった……」
義家 「彼女の知り合いだから特別」
鎌清 「…………」
大介 「…………」
幸影 「…………」
義家 「……なに? 俺の顔じっと見て」
鎌清 「いえ、その――……
……――最初に会った時と別人じゃありませんか!?」
義家 「…………あんた、失礼すぎだね。構わないけど」
幸影 「なんていうか……あの子のおかげで
ずいぶんとまともになったね」
義家 「悪い? 彼女に嫌われたくない」
大介 「悪くはないけど、正直言って少し違和感を覚えるかな……?」
義家 「彼女の前では甘えるから安心しなよ。
……それより服部、豊臣、短冊は見つけたの?」
半蔵 「それは――」
咲助 「悪い、服部!
これってお前のだったんだな。
俺、中庭に落ちてたから拾って使っちまった……!」
半蔵 「!!」
――――だっ!
半蔵 「…………!」
咲助 「お、おい?」
秀虎 「半蔵、短冊は握りしめなくても逃げはせんぞ」
半蔵 「……………………」
――――ぎゅ~~~
咲助 「わ、悪い……。
なんか、すげー大事なもんだったんだな……。
俺、代わりのもの探してくる――!」
半蔵 「――! 待て、そういう意味ではない!」
咲助 「へっ?」
半蔵 「……短冊を見つけて、すこし取り乱した。
その――……猿飛、短冊を見つけてくれて、感謝する」
幸影 「服部が素直だと――!?」
咲助 「え、服部、怒ってないのか?
それ、握りしめるくらい大事なもんだったんだろ?」
半蔵 「ああ。だが、こうして戻ってきたから平気だ」
咲助 「そっか、なら良かったぜ!」
大介 「(小声)短冊を抱きしめながら言っても説得力がないんじゃないかな?」
鎌清 「(小声)ですよね……。納得できる咲助は大物ですが……」
秀虎 「はははっ、すまんな、皆! 驚かせてしまったようじゃ。
儂が霧隠忠人にもらった短冊を半蔵に渡したら
ずいぶん気に入ったようでな」
忠人 「服部先輩、いろんなところを探し回ってましたもんね。
見つかって良かったです!」
蔵人 「忠人は優しいな。そこまで人の気持ちを考えられて……。
俺はいい弟を持った……」
忠人 「えへ、兄ちゃんに褒められると嬉しいな~。
でも兄ちゃんに育ててもらったおかげだよ?」
蔵人 「忠人……!」
幸影 「うんうん、兄弟仲が良いのもいいことだね。
けど、どうして服部は短冊にそこまで思い入れをしてるの?」
咲助 「そういえばそうだよな。
もしかして服部も、それでせんきょに勝てると思ったのか?」
蔵人 「(小声)それは無いだろう、咲助……」
鎌清 「(小声)無いですね……!」
大介 「(小声)だろうね?」
半蔵 「……選挙? なんの話だ」
咲助 「ちぇー」
幸影 「当然だよ……! はぁ」
秀虎 「む? そなたら、なんの話をしている?」
幸影 「たいした話じゃないよ。それで、思い入れの理由は?」
秀虎 「そなたもこだわるな、真田」
半蔵 「……自分とて、たいした理由ではない。ただ――」
――――ぎゅっ
半蔵 「……秀虎様は、この短冊に願いを書けばいいと言った。
自分は、何かを願うことなどしたことがないから――……」
咲助・鎌清・大介「!」
半蔵 「…………願うことができるのが嬉しくて、大切にしようと思ったのだ」
蔵人 「服部――」
忠人 「服部先輩……」
半蔵 「にもかかわらず、中庭で落としてしまったとは忍び失格だな。
すこし、浮かれすぎていたようだ」
義家・幸影「…………」
半蔵 「せっかくくれたのに、悪かったな、馬鹿殿」
秀虎 「ははっ、気にするでない!
こうして咲助殿たちのおかげで見つかって良かったではないか」
半蔵 「ああ。……皆、感謝する」
鎌清 「服部さんが微笑んだ、ですって――!?」
半蔵 「!」
義家 「不気味……!」
忠人 「服部先輩も人間なんですから笑うくらいしますよ~。
僕、けっこう見たことありますもん!
ね、服部先輩っ」
蔵人 「そうなのか……!?」
半蔵 「……うるさい、黙れ」
秀虎 「ふっ、照れるとは素直ではない奴じゃな!」
幸影 「豊臣に言われたくはないでしょ」
秀虎 「む……!」
咲助 「まぁとにかく、良かったぜ!
服部も怒ってないし、まだまだ短冊があるなら
いっそ皆で七夕するのはどうだ?」
大介 「ああ、それも楽しそうだね?
そういえば服部君は短冊にどんな願いを書こうとしていたんだい?」
半蔵 「それは――……」
半蔵 「――……彼女と、一日二人きりで過ごしたいと書こうと思っている」
大介 「――!」
幸影 「!」
秀虎 「半蔵、そなた……」
鎌清 「か、彼女とは、まさか――」
咲助 「――メロメロ女のことか!?」
半蔵 「…………」
蔵人 「うなずいた、だと……!」
忠人 「兄ちゃん、僕、負けたくない――!」
蔵人 「! 待て、忠人、何を……」
――――ばっ
忠人 「服部先輩、短冊に書くのは自由ですけど
僕だって先輩と一緒に過ごしたい気持ちは同じですよ!
お買い物したり、お料理したり、お昼寝したりしたいですし!!」
半蔵 「なに……!?」
蔵人 「忠人……!
……さすが俺の弟だな。よく言った」
忠人 「兄ちゃん!」
蔵人 「だが――――
――……あいつは、俺のものだ。
たとえお前であっても、二人きりにはさせん。
……俺が、あいつと過ごす。
姫君として、甘やかしてやりたいからな……!」
咲助 「ま、待てよ! それを言うなら俺だって、その――
――あいつとどっか、二人っきりで出かけたいとか思ってんだよ!!
いっつも俺の好きなとこに付き合わせてるから、
たまにはあいつが楽しめるような茶屋とかに……」
鎌清 「! 咲助だけにいい顔はさせません!
ぼぼぼ僕だって、彼女に告白する機会がほしいと思っているんです!」
秀虎 「む、皆なかなか情熱的じゃな。
だが――
たしかに、あやつと二人で過ごす時間は羨ましいものがある……。
儂も、もうすこしだけ……あやつと学生生活を楽しみたい」
半蔵 「!」
大介 「ふふ、豊臣君の気持ちはよく分かるかな。
俺も、子猫ちゃんと一緒にいられる時間は長くなかったからね。
咲助や鎌清たちみたいに、同じ組の気分を味わえたら楽しいだろうな。
…………二人きりで、ね」
義家 「俺をさしおいて二人きりとか、企むだけ無駄だよ。
彼女は俺の世話で忙しいから断るに決まってる。
……ひさびさに二人でだるだる、したいし」
幸影 「あのね、お前たち。
誰と二人きりで過ごすかなんて決めるのは彼女でしょ。
あの子にふさわしいのは俺しか――」
???「それは分からないんだぞ、この“箱”を使わないかぎりな――――!」
――――ばん!!!!!
全員 「!!!!!」
我来也「我こそは暗黒の地下より降臨せし孤高の竜王、
真実の探究者であり追憶の保持者なり――――!」
我来也「(小声)……ふっ、決まったんだぞ!
なにせ、この瞬間のためにずっと教室の外で待っていたんだからな……!」
咲助 「が、我来也さん、ずっと待ってたのか!?」
我来也「へぁ!? ななななにを言う、そんなことあるわけないんだぞ!!
――じゃない、あるわけ無いであろうっ」
鎌清 「ですが、戸に張り付いていた跡が……」
我来也「ううううるさい! 黙るがいい!!」
蔵人 「――それより我来也先輩、その“箱”は何です?
どこかで見たような気がしますが……」
我来也「!! よ、よくぞ気付いたな、霧隠!」
大介 「霧隠君、無視が上手だね?」
我来也「この“箱”は我の秘密呪術道具――
――“あいつに一番好かれているのは誰か”探る道具だ!!」
咲助 「な……! た、たしかに聞いたことがある気がする!!」
忠人 「へー、それを使えば、先輩に一番好かれてるのが誰かわかるんですか?」
我来也「ああ、そうだ。なにせ秘密呪術道具だからな!」
秀虎 「ふむ、それを使えば“自分こそあやつにふさわしい”などという自称を無視できるのじゃな」
半蔵 「……おそろしい道具だな……!」
我来也「ふっ、恐れるがいい! だが真実は常に我らを明るみにさらす!!」
義家 「……おもしろそう。やってみればいい。
それで一位になったら、七夕の願いごと通り
彼女と一緒に過ごしても許されるでしょ?」
幸影 「!! 待て、それは――」
我来也「ふん、真田、これを止めることは何者にも不可能だぞ?
絶対なる真理、真理なる理、理たる絶対なのだからな――」
我来也「(小声)でなきゃ、僕がせっかく待ち続けていた理由が
なくなっちゃうんだぞ! そんなの寂しすぎるじゃないか……!」
幸影 「……!」
忠人 「――――僕、やってみたいです!!
……先輩の心は渡しませんよ? もちろん、兄ちゃんにもね。
ちゃーんと皆の前で、先輩と仲良くしたいんだから――!」
蔵人 「……ああ、俺も容赦はしない。
あいつに、必ず俺を選ばせてみせる。
一番頼りになるのは俺だと……言わせてみせる」
秀虎 「ほう、面白い。
その勝負、男として受けぬわけにはいくまい。
……惚れた女のことなのだからな……!
儂はあやつを愛している。あやつに、それを伝えたいのだ――……」
鎌清 「抜け駆けは許しませんよ!!
……相手が誰であろうと、彼女のことだけは譲れません。
必ず、僕が一位になって彼女に告白してみせます……!」
義家 「全員、無駄。
彼女の相手は俺に決まってる。
……どんなことして困らせるか、楽しみ。
どんなふうに、彼女を笑わせるかも」
大介 「こうなったら、俺も参戦するしかないかな?
たしかに子猫ちゃんと二人きりの時間は魅力的だしね。
もっとも、子猫ちゃんが誰を選んでも俺は彼女の幸せを見守るだけだけどね――。
……そうは思いませんか、真田先生?」
幸影 「…………」
咲助 「――よし、お、俺も本気になるぜ!!
なにせ、あいつと二人きりの時間がかかってるからな……!
我来也さん、皆、勝負だ!!
……あいつを一番好きなのは俺で、
あいつが一番好きなのも俺だって、しょーめーしてみせる!!」
半蔵 「! 彼女を一番愛しているのは自分だ……!」
幸影 「!!」
半蔵 「……自分は、彼女のおかげで救われた。
彼女がいなければ、生きていけない。
これからのすべてを、彼女に捧げて生きる決意をしたのだ。
無理だとは思う。だが――
――――彼女に、好かれたい――――……!」
半蔵 「できるなら、ほんの少しでいい。
少しの時間でいいから、彼女と二人きりで過ごしたいのだ。
……幸せな時間が、思い出が、ほしい」
我来也「……そうだな、僕とて同じだ」
半蔵 「!」
我来也「僕も、あいつに救われた。
それまでの人生から、新しく進むことができた。
……友達も、先生も、できた」
幸影 「我来也――」
咲助 「我来也さん――」
我来也「……きっと、僕は我儘なんだと思う。
本当なら救ってもらったことだけで満足するべきなんだ。
でも、やっぱり、どうしても――」
我来也「――――僕も、あいつが好きだから」
全員 「――!」
我来也「あいつと二人の時間を過ごしたい。
あいつの笑う顔を一番そばで見たい。
あいつに甘えて、あいつを甘やかして、二人でたくさん笑いあいたい。
…………普通の、恋人同士として」
我来也「だから――――
――お前たちには、絶対に負けたくないんだぞっ」
咲助 「……いい度胸だぜ、我来也さん! 手加減しねーぞ、友達だからな!」
我来也「うん!!」
幸影 「まったく、お前たちは…………」
秀虎 「真田、そなたも素直になれ。
――――あやつが、欲しいのであろう?」
幸影 「――っ、俺はあなたとは立場が違いますよ。……教師です」
秀虎 「ほう?」
幸影 「ですが――――」
幸影 「大事な生徒を守るためには、俺も参戦するしかなさそうだな――――!」
全員 「!」
幸影 「……お前たち、散々、俺の前でいろいろ言ってくれたね?」
我来也「な、なんだ、目が笑ってないぞ、真田……!」
幸影 「茶番はここまでだよ。
――――あの子のとなりは、永遠に俺一人だ。
他の男なんて許さない。
……出会ってしまった以上、もう、許せない」
幸影 「なにせ、俺はあの子のためには運命だって捻じ曲げてやるからさ―――――!」
→つづく