雅玖
「…………」
雅玖さんが湯船につかって、本を読んでいた。
読んでいるのは、お祖父ちゃんおすすめの歴史小説で、
湯船の淵には、続きの本が何冊か置かれている。
雅玖
「…………」
雅玖さんは、私がいることにまったく気付かない様子で、本を読み続けている。
静かなお風呂場に、ページをめくる音だけが響いた。
渕田 結茉
(とりあえず、無事でよかった……)
ほっとするのと同時に、気持ちが一気に溢れ出てきて──
渕田 結茉
「どれだけ心配したと思ってるんですか……
ノックしたら、せめて返事くらいしてください!
それにここは、書庫じゃありません……!」
雅玖
「っ!?」
ようやく雅玖さんが、私に気付いて、本から視線を上げた。
雅玖
「え……? いつからそこに……
すまない、本に夢中になってしまって、ノックに気付かなかった」