狼たち
「グルルル」
――獣たちが、そこにいた。
牙を剥き出し、襲いかかる前のように姿勢を低くしている。
獣たちは明らかに、私たちに敵意を向けていた。
そして多分、この獣は――。
マツリカ村の若者1
「狼だ!」
祭りに乱入したのは、滅多に村には出ないはずの狼だった。
狼たち
「アオーン!」
狼が顎を上げて空に吠える。
途端、堰を切ったようにあちこちから悲鳴が上がった。
マツリカ村の若者2
「逃げろ! 喰われるぞ!!」
マツリカ村の娘1
「きゃああっ! いや、誰か!」
逃げ惑う人の声が続く。
誰かが弓矢を放ったけれど、狼たちはやすやすと矢を避けて跳躍した。
槍で追い払おうとしても無駄だった。
白と黒の毛並みが、物怖じせずに躍り出る。
その時、悲鳴の中に似つかわしくない静かな足音が響いた。
木々の並びの奥、そのまた奥に誰かがいる。
何者かが暗がりから近づいてくる――。
???
「――……」
月明かりが照らしたのは、精悍な顔つきの男性だった。
夜風が揺らす髪は、白銀。
烈しい気性を思わせる、力強く怜悧(れいり)な眼差しが、私たちを静かに見据えている。
ナーヤ
(……だれ……?)
男は、悠然と立っていた。
彼が片手を微かに上げると、狼が走りより、彼の元に控える。
背後にも人の姿があった。
男が、人と狼を従えている。
異形の者たちの姿が、そこにはあった。
ゼベネラ
「――我が名はゼベネラ。 白狼族の王だ」
低い声は、静かなのに人々の耳に届く強さがあった。
逃げ惑っていた村人が足を止め、突然現れた男に驚き立ち尽くす。
ゼベネラ
「花嫁を、迎えに来た。
――今年成人となる娘は、どこにいる」
男の言葉に、何名かが弾かれたように私やリンツェを見るのが分かった。
今年成人を迎える娘は、五人いる。
そのうちの二人が私たちだ。
ゼベネラと名乗った男が、凍りついたように立ち尽くす私たちを順番に見ていく。
ふと、私を見て目を細めるのが分かった。