


男性の声
「……なんだよ、どこにもいねえじゃねーか」」
志ノ原 青空(主人公)
(え……?)
“男子控室”と書かれた部屋から出てきた一人の男性。
見るからに参加者とわかる、
細身ながら引き締まった身体と、見上げる程の身長。
志ノ原 青空(主人公)
(うわ……腕が長いし手も大きい!
恵まれてる体格してるなぁ……)
男性参加者
「……? なんだよあんた」
志ノ原 青空(主人公)
「あっ、いえ……」
男性参加者
「もしかして迷子か?
ここはトライアウト参加者以外立ち入り禁止だぞ」
志ノ原 青空(主人公)
「……え?」
男性参加者
「ま、男女混合のリーグなんて珍しいから
見学者が増えるのも仕方ねーけど。
ったく、ギャラリー入れるなんてどうかしてるって」
志ノ原 青空(主人公)
「あ、あの」
男性参加者
「観客席の場所が分からないのか?
観客席だったらそっちを真っ直ぐ――」
志ノ原 青空(主人公)
「私! 参加者なんですけど!」
――私の言葉を聞いて、その人はぽかんと口を開けた。
男性参加者
「参加者……? あんた高校生だろ?
高校生って参加できないはず……」
志ノ原 青空(主人公)
「23歳! 実業団経験もあります!」
男性参加者
「冗談……え、マジで?」
思わず言い返してしまった。
高校生に間違われるなんて、卒業して以来始めてだ。
なんなら高校生の頃から社会人だと思われてたし。
それもこの身長のせいなんだけど。
でも女子バスケでは別に珍しくない身長だし
低い方かもしれないが……
男性参加者
「年上かよ、信じらんねぇな」
初対面でそんなこと言う人こそ信じられませんけどね、
という言葉は胸の中に留める。
男性参加者
「だったら悪かったよ。
あまりにもトライアウト参加者らしくなかったんでな」
男性参加者
「女子も男子も経験者しか受けられないのに
こんなところで道に迷うとか
緊張感も自覚もなさすぎだろ」
志ノ原 青空(主人公)
「そ、そこまで言われる筋合いは……
そういうあなたこそ……!」
そこまで口にして、ようやく気付いた。
この背格好と、髪型――
志ノ原 青空(主人公)
「……もしかして新起 生絃さん?
茨城代表でインターハイに出てた……!」

男性の声
「隣、いい?」
志ノ原 青空(主人公)
「あ、はい。どうぞ」
男性参加者
「いやー、よかった。
俺もあまり人ごみ好きじゃなくてさ」
志ノ原 青空(主人公)
「あ、えっと……私はこれで……」
知らない人と一緒に食事を摂れるほど
気持ちに余裕はないし、相手の邪魔をしてしまいそうだ。
その場を後にしようとすると――
男性参加者
「気をつかわないでよ。
むしろ俺が遠慮した方がよかった?」
志ノ原 青空(主人公)
「いえ! そんなことは……!」
結局立ち去る機会も逃し、階段に並んで座ることになる。
こうなるとなおさら、サンドイッチが喉を通らない。
男性参加者
「この場所、いいよね。
静かっていうか、落ち着くっていうか」
志ノ原 青空(主人公)
「そ、そうですね……」
男性参加者
「俺、玖保田 樹。よろしくね。
君は?」
志ノ原 青空(主人公)
「あっ、志ノ原 青空です。
あの……玖保田、さんって……」
玖保田……
頭で何度か反芻させてようやく思い出す。
志ノ原 青空(主人公)
「ええっ!? あの玖保田……さん!?
浅草ハウンズの、玖保田兄弟の――!?」
玖保田 樹
「お、知ってた? やったね。
俺もまだまだ捨てたもんじゃないな~」
志ノ原 青空(主人公)
「そんな……!!」
玖保田兄弟といえば、
中学の頃から男子バスケで大活躍していた存在。
有名人も有名人だ。
私もバスケ雑誌で何度も特集を見たことがあるし
ネットでは、玖保田兄弟のファンが彼らの試合が
ある度に、写真や動画をアップしている。
志ノ原 青空(主人公)
「でも、どうして玖保田さんがミックスリーグに……?」
玖保田 樹
「そんな堅苦しくなくて、みっきーでもいいよ。
俺の回りじゃそう呼ぶ人多いしさ」
志ノ原 青空(主人公)
「それはちょっと……
玖保田さんでお願いします!」
玖保田 樹
「そーお? ま、いいけど……残念だなぁ」

星花と染河さんが連れ立って出ていくのを見送り、
私は食堂の掲示板の前に立つ。
志ノ原 青空(主人公)
(掲示板の情報も確認しておかないと)
食堂が一つだけということは、
共有したい情報がここにある、ということだ。
今はまだそれほど多くはないが……
志ノ原 青空(主人公)
(ん……今のところ特に大事な内容はないかな。
リーグ開催の詳細ならメールでも確認できるし)
志ノ原 青空(主人公)
(へぇ……地域イベントのフライヤーや
食事のメニューも置いてあるんだ)
倉野 グレン
「…………」
志ノ原 青空(主人公)
「あ、すみません!」
後ろに立ちながら、
私がたまたま手にしたメニューの用紙を
見ようとしている男性に気付いた。
この高身長――えっと、確か……
志ノ原 青空(主人公)
「倉野……さん、でしたっけ」
倉野 グレン
「うん。よろしく。グレンでいいよ。
今までそう呼ばれてきたし」
そっけなく言うと、
私の手元を確かめるように眺める。
倉野 グレン
「ふーん、カレーはポークとチキンで
時々変わるのか。いいね」
志ノ原 青空(主人公)
「カレー、好きなんですか?」
倉野 グレン
「まあね。せっかくなら好きなもの食べたいでしょ」
表情も声色も変えずに、そんなことを言う。
……少なくとも悪い人ではなさそうに見える。
倉野 グレン
「そっちも似たような考えじゃないの」
志ノ原 青空(主人公)
「たまたま手に取っただけですよ。
アスリート用だから、
色々と計算されているんでしょうけど」
倉野 グレン
「だろうね。けど、腹に詰め込むだけが
食事じゃないし、やっぱ美味しいほうがいいじゃん」
志ノ原 青空(主人公)
「それはそうですが……」
食にこだわるタイプの人だろうか?
見た感じはそんな風には見えないけど……
倉野 グレン
「あ、もしかして、
食にこだわるタイプに見えないって思ってる?」
志ノ原 青空(主人公)
「えっ!? なんで」
なんで考えていることが分かったのか、
と私言うよりも前に
グレンさんが種明かしをしてくれた。
倉野 グレン
「みんな同じこと思うからさ。
別にこだわるタイプじゃないけどフツーでしょ」
……なんだかつかみ様のない人だ。

新起 生絃
「ふーん……
ピックアップ残ったんだな、あんた」
志ノ原 青空(主人公)
「まあ、なんとか……」
新起 生絃
「見かけによらず、
相当できるフォワードってことか?」
志ノ原 青空(主人公)
「だ、だから私は――」
男子参加者
「フォワード?
彼女はガードと聞いていたが違うのか?」
男子参加者
「午前中のプレーを何度か見ていた限り
インサイドには攻め込まなかったように思えたが」
新起 生絃
「なんだよ、急に割り込んできて」
男子参加者
「ポジションの確認をしたかったまでだ。
ピックアップゲームは、即興のチームプレーも
見越してメンバーを選んでいるはずだからな」
志ノ原 青空(主人公)
(まさかこの人……!)
間違いない。
元日本代表で、男子プロバスケチーム
『ブリッツ柏』の現役キャプテン――
男子参加者
「ああ、自己紹介がまだだったな。
神郷 圭碁だ。よろしく頼む」
志ノ原 青空(主人公)
「あ、あの……志ノ原 青空です。
よ、よろしくお願いします」
新起 生絃
「有名人だと分かると
ちゃんと自己紹介するんだな?」
志ノ原 青空(主人公)
「そういうわけじゃ……」
そういえば彼には名乗らなかったのを思い出す。
まあ、あんな出会い方なら当然だろう。
それより――神郷さんみたいな選手が、
なんでミックスリーグに?
『さえぐらコンビ』といい、『柏の神』といい――
元日本代表が次々集まるほど、ミックスリーグへの
注目度はそんなに高い、ということ……?
新起 生絃
「それより、あんたがガードってマジかよ。
女バスでそれだけ高さあれば、
嫌でもインサイドやらされんだろ」
神郷 圭碁
「ポジションには向き不向きがあるからな。
今までのスクリメージでわかったが、
ボール運びは女子に任せた方が良さそうだ」
神郷 圭碁
「マッチアップする男子からすると、
いつもと高さが違ってカットしにくく感じる。
こちらに君のようなガードがいるならうってつけだろう」

中衣 遊哉
「悪いな、呼び止めて。
名簿と照らし合わせて気付いたんだ」
志ノ原 青空(主人公)
「あの、私に何かありましたでしょうか?」
さっきの練習で、
よっぽど変なところでも見せてしまったんだろうか。
そんな私の不安を見て、中衣さんは笑みを浮かべる。
中衣 遊哉
「リンクジェッツ出身って書いてあったからさ。
あそこに先輩がいるんだよ。
新藤さんってコーチ、知ってるか?」
志ノ原 青空(主人公)
「はい。私がいた頃もヘッドコーチをされていて
いろいろとお世話になった方です。
お知り合いなんですか……?」
中衣 遊哉
「知り合いも何も、
新藤さんとは昔、同じチームだったんだよ。
その関係でリンクジェッツの話は聞いていたんだが……」
中衣 遊哉
「やっぱりそうか。
君以外にも何人か来ると思ってたんだけど……
君一人だけ? 書類選考で落ちたとか……?」
志ノ原 青空(主人公)
「さぁ、他の方は知りませんが……」
中衣 遊哉
「そっか……あ、ごめんな。急に呼び止めて。
ところで、さっきシュート練習してたよな?
ちょっともう一回見せてくれ」
志ノ原 青空(主人公)
「あっ……はい!」
ボールを手渡されて、
言われるがままシュートフォームを見せる。
中衣 遊哉
「……うーん、固いなあ」
志ノ原 青空(主人公)
「ですよね……
実は生まれつき、身体が固くて……」
中衣さんが近づいてきて、私の手をじっと見つめる。
中衣 遊哉
「俺が言った固いっていうのは
そっちの意味じゃなくて……」
中衣 遊哉
「たぶん普段のフォームから崩れてると思うんだけどな。
緊張してるからか、固さが出ている」
志ノ原 青空(主人公)
「そう……なんでしょうか。
自分では気付かなくて」
中衣 遊哉
「場に呑まれるとよくあることさ。
こういうのは場数を踏むしかないっていうけどな。
少し、いいか?」
そう訊くと中衣さんは、私の手に自分の手を重ねる。
志ノ原 青空(主人公)
(えっ……?)
中衣 遊哉
「普段だったら、もっと高めに構えてたんじゃないか?
今は気が逸ってるんだと思うけど、焦れば焦るほど
フォームもテンポも乱れていく」
志ノ原 青空(主人公)
「あ、あの……っ」
中衣 遊哉
「緊張するなと言っても無理な話だろう?
そういう時は、気持ち高めに……」

新起 生絃
「……なんだよ、見てねえでさっさとしろよ」
志ノ原 青空(主人公)
「え、あっ!」
そうだ。
最後――私の番だ。
志ノ原 青空(主人公)
「リンクジェッツ」出身の
志ノ原 青空です!」
志ノ原 青空(主人公)
「相羽さんとは同期で
また偶然一緒のチームになれて嬉しく思います」
志ノ原 青空(主人公)
「えっと――」
こんな記者会見なんて、もちろん生まれて初めての経験。
いろいろ考えてきたけど、
最後に言うには相応しくない気がする。
他のみんなは正直に思っていることを話していた。
となると、私も綺麗に取り繕った挨拶じゃなくて――
志ノ原 青空(主人公)
「ブレイブサンダースが好きで、バスケを志しました。
この場に立てていることが夢のようです」
志ノ原 青空(主人公)
「私がミックスリーグでやりたいことはたった一つ」
志ノ原 青空(主人公)
「――ブレイブサンダースのみんなで、
ミックスリーグで優勝すること。
それだけです」
ざわっ、と記者たちの間にどよめきが起こる。
記者たちだけじゃない、スタッフの間でも戸惑いの表情。
……さすがに、言い過ぎたと思うが
この気持ちに嘘をつきたくはなかった。
スポーツ雑誌記者
「いやあ、頼もしい強気な宣誓ですね。
これは今後の活躍に期待大、ということでしょうか」
中衣 遊哉
「そうですね。彼女は、この場で一番
我々のことを考えてくれている選手ですから。
だから、何も言わずともわかってくれています」
中衣 遊哉
「――我々の今大会の目標が、ね」
中衣コーチの繋げた、
おそらく誰も思ってもいなかった言葉に――
また会場がどよめく。
さらに、それだけでは終わらない。
綿瀬 朋史
「今の彼女の言葉を笑う者は、このチームにはいない。
もしいるとしたら、
今すぐにユニフォームを脱いでもらうことになる」
綿瀬 朋史
「ブレイブサンダースの目標はファイナルへの出場。
そして優勝。それ以外にありません。
これは大きく書いてくれて構わない」
綿瀬コーチの言葉には、
さすがに記者たちも戸惑いの色を隠せない様子。
クラブスタッフ1
「と、とても興味深い挨拶をありがとうございました。
それでは最後に、皆さんで写真撮影をお願いします。
移動となりますのでご案内します」
















