アスコット(前編)

社交シーズンが始まり、五家会議の招集がかかるより前にローアンへ到着していたアスコットは、それを悟られないようエドワードやアルフレッド、ライナスといった仕事熱心な面々と遭遇しそうな場所を避けて過ごしていた。

(本当は女性たちに誘いをかけに行きたいところだけれど。そうするとあっという間にローアンにいると噂が広まってしまうし)

必然的に自身の邸に籠ることが多くなり、これならもうしばらく領地に引っ込んでいてもよかったかと考えるが、そんな思考に陥った自分に対して自嘲めいた笑みが口元に浮かんだ。

(どこにいても退屈なのは変わりないだろうに。領地であってもローアンであっても見飽きた場所だ)

暇を持て余したアスコットはタウンハウス内を軽く巡り、『あること』を確認するため手近にいた使用人を捉まえた。

「……また増えた?」
「はい。昨日……」
「ふうん……まあいいけど、ここに留め置ける数にも限りがあるから、適当なところで領地の邸へ送っておいて」
「承知しました」

ちょうど会話を終えた時、邸の外に馬車が停まる音がする。窓から確認すると馬車にはバーンスタイン家の紋章がついていた。

(ローアンにいるとバレたか。それとも全員こちらへ到着したということかな?)