ルーカス(前編)

サリヴァン家の領地・ヘルセスタンの邸でルーカスは届いた手紙を忌々し気に見つめた。
それは今年から五家の取りまとめ役となったエドワードからのもので、要約するとローアンにはいつ頃来られるのかという催促の文言が書かれていた。すでに社交シーズンを迎えていることはルーカスも重々承知していたが、博覧会という面倒事を抱えた今年は特に腰が重く感じる。

(別にここが好きなわけじゃない。でも、あの邸は――)

ローアンのタウンハウスに比べればこちらの方がいくらかマシというのは疑いの余地もないが、そろそろ引き延ばすのも限界。
そう認めないわけにもいかず、ルーカスはのろのろと支度を始めた。
といっても『サリヴァン家の次期当主』の体裁を保つための荷造りは既に執事が整えているので、必要なのはルーカスが個人的にローアンまで持っていきたいと思うものの準備だけだった。
愛着と執着・懐古と後悔の念がないまぜになった気持ちを抱えながらルーカスは本や、布で包んだ大きな板――のような彼にとっては大切な荷物をワゴンへ積んでいく。執事に出立の意思を告げると箱馬車の待つ場所までルーカスは自分で荷物を運んだ。

(今年は恐らく……女王の顔を見る機会も増える)

馬車に乗り込んだルーカスは陰鬱な物思いから逃れるようにぎゅっと目を閉じ、御者へ命じた。

「出してくれ……ローアンへ」