ライナス(前編)

――グランド・アルビオン、首都ローアンにて。

「で、ライナはいよいよウォードのご当主様ってわけか!」
「いや、まだだよ。博覧会を成功させるのが当主になるための課題のひとつってところかな」

ライナスは昼間からパブに集う荒くれ者たちとのんびりビールを酌み交わしていた。これは彼にとって仕事の合間の息抜きでもあるが、同時に反女王派に関する情報収集をするという目的もある。

「しっかしお前が次期当主様ねえ……最初にここへ来た時ゃ、まだまだちみっこいガキんちょだったのに。ああいや、今でも見た目はうちのやんちゃ坊主とあんま変わんねえなあ」
「あのさぁ、そのやんちゃ坊主って確か五歳だったよね? これでも俺、結構頼りになる次期当主様なんだけど!?」

軽口を叩き合ったあと、ライナスは愛嬌のある目で男たちを見回した。

「ところで前にこの辺りじゃ見かけないようなやつがうろついてたって言ってたよね? あれってどうなった?」
「ああ、そういや最近見てねえが、昨日ひとつ向こうの通りで――」

彼らの話に愛想よく耳を傾けながら、ライナスは聞きだした話を素早く頭の中でまとめる。
やがてパブから出たライナスの元へ、音もなくひとりの男が近づいてきた。

「……ライナス様。奴らのアジトを見つけました。マークしていた人物が入るのを確認しています」
「了解、すぐに行く」