エドワード(前編)

社交シーズンが始まり、五家の誰よりも早くローアン郊外の邸へ戻ったエドワードは久しぶりの街を散策していた。

(以前と変わらない活気だ。道行くヒトビトの表情も明るく見えるけれど……)

「今夜は霧が濃くなりそうだわ……ね、早く帰りましょう」
「そうね。最近ますます物騒になってきているし――」

すれ違った女性たちの会話が耳に入り、エドワードは眉をひそめる。

(不穏な気配が漂っていると感じたのは、気のせいではなさそうだ)

数年前からローアンを騒がせている【翅狩り】がこのところ増えているという噂はエドワードの耳にも届いていた。しかし被害者は【半混児】と揶揄される力の弱い半妖精ばかりだったので、女王を含めこの國の大半の者は我が事のようには考えておらず、ただ物騒だと騒ぐだけだ。

(翅を狩られる……それはどれほどの恐怖と苦痛だろう。どんな立場の誰であっても、そのような仕打ちを受けていいわけがない)

このタイミングでローアンへ戻ってきたからには、自分が事件の解決に向けて動くべきではないのか。きつく唇を噛みしめながらエドワードが義憤に駆られていると――

「おい、待てっ……!」

少し離れた通りから聞こえてきた怒号に、エドワードは迷わず駆け出した。