ローズ
「!」
フィリップが2階から下りるよりも早く書類の山は無常にもバランスを崩し――階段の下、
玄関ホール目掛けてハラハラと落ちていく。

1階にいた私の頭にも何枚もの紙が落ちてきたけれど、舞い散る紙吹雪の中に、ふと自分以外の誰かがいることに気づいた。

第一印象は――気難しそうなヒト。
もっともこの状況でにこやかなほうがおかしいとも言える。

でも状況を差し引いても、目の前の男性は不機嫌そうで微笑んだことがないようにすら見えた。
???
「なんだ、これは」
ローズ
「! 申し訳ございません。
運ぶ途中の書類を2階から落としてしまったようで――」
口を開いたあとで遅まきながら気づく。
このヒトはバーンスタイン邸の者ではない。
そして今日はアルフレッドとライナスが来る日。
ローズ
(……もしかして)
ゴネリルから聞いた情報を引っ張り出して考えてみる。
お世辞にも愛想がいいとは言えない、厳しい顔つき。
とっつきにくいという言葉がぴったりなこの男性は――
ローズ
「アルフレッド=クレスウェル様でしょうか」
アルフレッド
「そうだ。案内も待たずに入って悪かったな。
……しかし何度もここへは来ているが、こんな出迎えを受けるのは初めてだ」