ローズ
(間に合わない……!)
訪れるであろう衝撃に反射的に目を瞑る。
けれど――。
アスコット
「ローズ、こちらへおいで」
ふわりと、アスコットに後ろから体を抱き寄せられ。
次の瞬間――。
ローズ
「…………?」
とっくに襲ってきているであろう痛みはこず、その代わりに馬の悲鳴と凄まじい衝撃音が響く。

何が起きたのかと、恐る恐る瞼を開いてみると……。

暴れ馬が私たちの眼前で倒れ込み、泡を吹いて気絶していた。
ローズ
「……これは、いったい――」
何が起きたのかと、目を開いていただろうアスコットに、問おうとしたが――。
アスコット
「――――――」
ローズ
「……っ!」
それは――さっき、老人を睨んでいた……と錯覚した時とは、比べ物にならないほどの悪寒。否。

以前にもどこかで感じたことのある、【畏怖】――。

彼の視界にも、馬の暴走により怪我をしたヒトたちが、多数映っているはずだけれど。
アスコット
「ふふっ――」
それすらも愉しいというように、彼の口元は醜悪に歪んでいる。

私の怯えた視線に気づいたのだろう、彼は表情を隠さないままこちらを向いた。