ローズ
「心にもないことを仰っしゃらないでください」
自分でも驚くぐらい、冷たい声が出た。
そんな私をさして驚いた様子もなく、アスコットが見つめる。
アスコット
「おや、どうしてそんなことを言うのかな?
君の目には私がそんなにも冷血漢に見えて――」
ローズ
「――先程。
あの女性を見て、笑っておられましたね?」
遮るように告げれば。
アスコット
「…………」
アスコットが感情の読めない笑みのまま、押し黙る。
けれど――対峙する私が視線をそらさないのを察した瞬間。
アスコット
「――ははっ、見られてしまったか」
おもむろに口元に手をやり、アスコットはもはや愉悦を隠さず、歪んだ笑みを浮かべた。
アスコット
「つい、ね。笑いがこぼれてしまったんだよ。
あそこまで錯乱した女性も久しぶりだったから」
心底楽しそうに笑うアスコットに私は背筋に冷たいものが走りながらもまっすぐにその瞳を見つめ返す。