小さく波が揺れる海面を見ながら、
考え込んでいると――

日下部 恭也
「紗世ちゃん」
露木 紗世
「!?」

ふいに、後ろから名前を呼ばれた。

露木 紗世
「え、恭也さん……!?」

ついさっきまで私の頭を悩ませていた相手が
目の前に現れたことに焦り、
とっさに距離を取ろうと脚をバタつかせる。

露木 紗世
「っ!?」

するとその拍子に、浮き輪が外れてしまった。

そのまま身体が波に飲まれて、
海の中へと沈んでいく。

露木 紗世
(早く上がらなきゃ……!)

突然のことにパニックになり、
どちらが上かも分からないまま、
手足をバタつかせていると――

肩に腕を回されて、
海面へと引き上げられた。

露木 紗世
「はあ、はあっ……!」
日下部 恭也
「もう大丈夫だよ。ゆっくり息吸って」
露木 紗世
「……っ、はい……」

呼吸のペースをはかるように、
恭也さんの手が私の背を優しく叩く。

日下部 恭也
「ごめんね、いきなり声かけて
驚かせちゃったね」
日下部 恭也
「……でも、どうして逃げようとしたの?
ちょっと傷ついちゃったんだけど」
露木 紗世
「あ、ごめんなさい……!
逃げようとしたっていうか、その……」

完全に逃げようとしていたくせに、
必死に言い訳をしてみせる。

すると、恭也さんは苦笑を浮かべた。

日下部 恭也
「まあ、それは冗談だけど。
でも危ないから、
いきなり暴れちゃ駄目でしょ」
露木 紗世
「すみません……」

情けなさと申し訳なさで
つい俯いていると……。

ふと、ほとんど抱きしめられているような
体勢になっていることに気付いた。

露木 紗世
(近い……)