茜色に染まる電車内で、
紗世は俺の肩に寄りかかりながら
静かな寝息を立てている。

瀬尾 叶多
「…………」

そのあどけない様子に、
自然と笑みがこぼれた。

瀬尾 叶多
(……よかった。
この様子なら、さっきのことは
そこまで引きずらなくて済みそうかな)

――今まで、バース性とは
無縁だったはずの彼女の人生。

それが、ある日突然オメガだと告げられて
番を探すことになるなんて、
きっとひどく困惑したはずだ。

瀬尾 叶多
(紗世には、
幸せになってほしいのに……)
瀬尾 叶多
(君は昔からずっと、
俺にとって大事な存在だから)

俺を信頼して隣で眠ってくれることを、
こうして一緒に過ごす時間を、
幸せだと思ってしまう。

瀬尾 叶多
(でも、この気持ちに
名前をつけることは無い)
瀬尾 叶多
(その代わり、
紗世がどんな人を番に選ぶのか
ちゃんと見届けたい)
瀬尾 叶多
(……幸せにしてくれる相手を、
なんとしても見つけてあげたい)
瀬尾 叶多
(君を幸せにする――
なんて言えるほどの覚悟は、
俺には無いけど)
瀬尾 叶多
「……それでもちゃんと、
俺がそばで君を支えるからね」

呟いた言葉は、
紗世に届くことなく
夕暮れの車内に溶けて消えていった。