「これから、ヒイロノカケラ―新玉依姫伝承―について簡単に説明しますね」
「面倒だからてめえに任せる」
 
「鬼崎くん、そんなことは言わないでください。僕1人じゃ説明できないところも出てくると思います」
「それに、鬼崎くんが参加した方が彼女も喜ぶと思います」
 
「だがよ、今さらあの事件を蒸し返してどうすんだよ。意味ねえだろうが」  
「意味はあります。彼女は知りたいからここに来ているんですよ?」
 
「……物好きなヤツ」  
「鬼崎くん。彼女に対して失礼ですよ」
 
「うるせえ。おい、おまえがここに来るのはかってだけどな、俺を巻き込むんじゃねえよ」  
「…………」
 
「…………」  
「…………」
 

「なんだよ、言いたいことがあるなら、はっきりしろ。
お前といい、あいつといい、いちいち黙り込むのをやめやがれ! うざったいんだよ!」  

  「……鬼崎くん。それ以上、彼女に失礼なことをいうなら僕、怒りますよ」
 
「チッ……。悪かった、言い過ぎた」  
「わかってくれたのなら、良いんです。
反省しているということは、鬼崎くんも協力してくれるということですね」
 
「面倒だけどな……さっさと説明を始めて、さっさと終わらせるぞ」  
「はい、すみません。大変お待たせいたしました」
 
「ストーリー説明をすれば良いんだな」  
「そうです。これからストーリーの説明を始めたいと思います。
この物語は主人公――つまり貴女のことですが、貴女は【寒名市】に住んでいる高校2年生です」
 
「おい。そっから説明すんのかよ。話が長くなるんじゃねえのか」  
「そうですね。では、鬼崎くん僕の代わりに説明をしてください」
 
「…………(カンペ持ってるのはてめえだろ)」  
「…………(これは進行表でカンペではないんですよ)」
 
「……てめえに任せる」  
「はい、では話をもどしますね。貴女が住む【寒名市】は住みよい街として人気の都市です。
この街については、他の方が説明してくださっているので、詳細は省きますね。
この【寒名市】に有名な宗教団体【天意百道】がやってきます」
 
「【天意百道】か。名前を聞くだけでむなくそわりぃぜ」  
「僕は色々とありましたけど、この街に呼んでいただけて感謝しています。
彼女に会うことができましたから」
 
「恥ずかしいことを真顔で口にするヤツだなてめえは……」  
「鬼崎くんもそう思いますよね?」
 
「ふん。あいつに会えて良かったっつうのは、俺も否定しねえよ」  
「やはり、そうですよね。
では続きですね、【天意百道】は人気のある宗教団体なので、
【寒名市】はいつも以上の賑わいをみせました」
 
「……あの騒ぎようは異常だったぜ」  
「音端さん、教祖の天宮音端がいたからでしょうね」
 

「彼女は封印の巫女【玉依姫】と呼ばれていましたし、
彼女がいなければ【天意百道】はあそこまで有名にはならなかったでしょう」

「アイドルだかなんだか知らねえが、ちやほやされすぎだろ」
 
「恐らく、可憐な外見が衆目を集めたんでしょうね。  
【寒名市】は有名人と、その信者が来たことにより  
どこか浮き足立った空気になりつつも住民の日常生活は穏やかに過ぎていきました」
「知らないまま生きてりゃ、あいつらと関わらないで生きてけた人生もあったのかもしれねえな」
 
「……そうですね。ですが、平和な時間は貴女のクラスメイトの1人の死から崩れ始めていきます。  
平和な街で起きた殺人事件。けれどそれは、これから起こる戦いの序章でしかなかったのです」
「あいつも身近にいたヤツが死んで、辛かったんじぇねえか」
 
「ええ。悲しみを乗り越えようとする最中、
貴女は【天意百道】の教祖である天宮音端に自分と同じ、【玉依姫】の素質があると告げられます。
貴女がその宿命を受け入れる前に周囲が貴女を【玉依姫】と呼び、  
そして、後に【守護者】と呼ばれる少年たちと出会います」
「【封印の巫女】である【玉依姫】か……」
 
「……【玉依姫】の素質があるということで、貴女を狙う人が出てきました。  
そのことで、普通の生活を送っていた貴女は【封印】を巡った戦いに巻き込まれてしまいます」
「……いきなり【玉依姫】だ【守護者】だって言われて、簡単に受け入れられるわけがねえよな」
 
「そう、ですよね。  
次第に不穏な動きを見せ始める【天意百道】、そして【寒名市】に隠された大きな秘密――」
「俺たちは何もわかっちゃいなかったんだ」
 
「はい。僕たちは何も知らなかった。知らないまま、大きな渦に巻き込まれてしまったんです」
「色んなもんに、おまえは立ち向かったんだよな ……トロイくせによく頑張ったよな」
 
「本当に、貴女は頑張りましたね」
「右も左もわからねえ。手探り状態の俺らが、それでもこうやって生きてここにいんだ。
【天意百道】も、あの事件も、今の俺らには関係ねえことだろ」
 
「……そうですね。あの戦いは、全て終わりました。僕たちは自由になったんです」
「人生なんて1度きりしかねえんだ。楽しく生きたもん勝ちだろ」
 
「鬼崎くんの言うとおりですね。戦いが終わり、【寒名市】は平和を取り戻しました」
「この街で貴女と穏やかに過ごせる日が来るなんて……嬉しいです。
また、僕と一緒いてくれますか……?」
 
「んな先の話じゃねえだろうが。
寝て起きるを繰り返してればあっという間に月日は過ぎんだ」
「……おい、しかたねえからおまえが来るのを待っててやるよ。
だから、できるだけ早く来いよ」


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