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    蒼黒の楔 緋色の欠片3



  • 蒼黒の楔 緋色の欠片3 明日への扉

拓磨「ゴホン……あー、実はだな。この紙袋にはタイヤキが2つ入ってる」
珠紀「うん……入ってるね」
拓磨「分けて食べろってサービスされたんだよ。だからその……お前、ひとついるか?」
珠紀「え、いいの?」
拓磨「ああ、こ、こういうのはひとりで食うより、誰かと食った方がうまいんだよ」
目の前に、ちょっと乱暴なぐらいの勢いでタイヤキが突き出される。
こういうところが拓磨らしいところだ。

祐一「それでもあえてこう言おう」
祐一「俺たちを信じてくれと」
真弘「そういうことだ。俺たちを信じてりゃいい」
真弘「お前が後ろに控えてるってわかりゃ、俺たちが負けるわけがねえ」
祐一「心配はいらない。俺たちは勝つだろう」
珠紀「……はい」
戦いは気持ちや気迫だけで勝てるものではない。
それは、先輩たちもよくわかってるはずだ。
それでも、絶対勝つと言われると安心する。

珠紀「ひょっとして……寝ていましたか」
祐一「いや、さっき起きた」
珠紀「そうですか、よかった」
珠紀「体調はどうですか?」
祐一「ああ、もう大丈夫だ」
祐一「真弘にも礼を言っておかなければいけないな」
祐一「お前の傷は、大丈夫なのか?」
珠紀「……はい」
いつもの優しい先輩……。
ほっとしていた。
あのときの先輩はなんだか怖かったから……。

珠紀「この棚の奥にあるレバーを引くと――」
床の一部が沈んでいく――。
珠紀「とまあ、このように、隠し階段が出てくるわけです」
卓「……こんな仕掛けがあったんですか。我が家には」
珠紀「あれ、知らなかったんですか?
卓さんならとっくに知っているものだとばかり」
卓「いや……それよりなぜ、我が家の隠し部屋をあなたが?」
珠紀「ずいぶん前、大掃除の手伝いに行ったとき――
なんだか偶然見つかっちゃったというか……」
卓「ぐ、偶然見つけられるレベルなんでしょうか……」

珠紀「せっかくいい天気だし、縁側で飲もうか」
慎司「はい」
珠紀「おいしいお茶だね~」
慎司「そう言ってくれるとうれしいです。淹れ方は大蛇さんに教わったんですよ」
珠紀「そっか……さすが慎司君、なんでも器用だなぁ」

遼「俺が……なんのためにいると思ってる」
遼の、抱きしめる腕が痛い。
遼「お前を守るために俺の手が汚れるのはいい。
だがな、お前はその青臭い理想を大事にしてろ」
珠紀「遼……痛い……」
遼「うるせえよ。俺の力が、なんのためにあると思ってる」
遼の身体は震えていた。
遼「この力は……大切な者を守るための力だ」
遼がいつも乱暴に振る舞って、ひとりになろうとする理由がわかった気がした。
遼「2度と……大切な者を失わないための力……」

珠紀「……誰ですか?」
質問には答えず、ただ冷たい目を私に向ける。
人ではないような気がした。
人にしてはきれいすぎる。
どこか死者を思わせる美しさを彼は持っていた。
まるで、完全な容姿という言葉がそのまま形になったかのような……。
???「邪魔をするな」

珠紀「立てる?」
小さくうなずいてくれる。
言葉の意味は……わかるみたい。
???「あ……り……と」
珠紀「……ひょっとして、ありがとう?」
???「……ありがとう」
???「ありがとう」
彼は私の手をしっかりと握った。

卓「珠紀さん、
そこの答えが違っていますよ」
珠紀「え……ほ、ほんとですか!?」
答えのページで確認。
た……確かに間違ってる。
基本問題なのに……。
卓「みなさん、真面目に勉強した方がいいですよ。
狐邑君なんかほら……」
祐一「すー……すー……」
真弘「あーあ、寝てやがる……」
珠紀「色々と諦められている……」
遼「なにしに来たんだ、狐邑のヤツは」
そんないつも通りに効率の悪い、
でも、いつも通りに
楽しい勉強会は過ぎていく。
1年前、私と一緒に戦った守護者は、
こういう人たち。

背の高い男の人……。
私たちが追いかけてきた人影と違う?
ゆっくりと階段を下りてくる。
そのたびに、その身体から放出される力が
増していく……。
珠紀「……あなたは、誰?」
ニール「我が名はニール」
珠紀「ニール……あなたが」
階段を下りきり、
私たちを見渡す視線は、
人間とは思えないほど冷え切っていた。

ロウ人形の、ガラス玉のような目……。

目の前にいるこの男が、
ロゴスの三賢人を全て殺した……。

手のひらに、汗がにじむ。

???「彼らは薬師衆くすししゅう。
ここ1年の間に編成された対霊戦闘の
エリート部隊」
???「お目にかかれて光栄です。
終末から世界を救った玉依姫。
春日珠紀さん」
珠紀「……あなたは?」
???「失礼。
申し遅れました」
五瀬「五瀬新いつせしん。典薬寮の幹部と
捉えて頂いて、差し支えありません」
五瀬「我々は【国】の意志の執行者。
ここで起きている事象を沈静化させる
という義務を負っています」

ぱくり、と。
拓磨が玉子焼きをひとつ口に含む。

もぐもぐと味わっている間も
その反応をじーっと見守った。
珠紀「……味はどう?」
拓磨「……うまい」
珠紀「……! 本当!?」
拓磨「ああ。……いや、本当に美味い」
よかった……。
全身の力が抜けるような感覚を覚える。

珠紀「……真弘先輩、まだ怒っていますか?」
真弘「……怒るも何も、意味がわかんねーよ」
真弘「お、おまえはいきなりあなたとか
言ってきやがるし」
真弘「それからことあるごとに、
俺の世話を焼きたいみてえなこと
言ってくっから――」
真弘「どうしたらいいかわかんなくなって
混乱してるとこに、狗谷のあれだ」
真弘「~~~あいつが俺に【父さん】って
言ったんだぞ!?」
真弘「気持ち悪いを通り越して、
頭おかしいんじゃねえかって疑ったぜ」
真弘「なのに、おまえまでノリノリで
家族ごっこを始めるしよ……」
真弘「おまえも狗谷も
あの変な状況に順応して、
俺だけぎゃあぎゃあ言って……」
真弘「まるで、俺の方がおかしいんじゃねえかって
……ちっと不安になっちまった」

珠紀「きれい……」
頬を撫でる柔らかい風に乗って、
無数の桜が音もなく舞い散る。
祐一「ああ。とても心が落ち着くな」
珠紀「はい」
さっきまでざわついていた心が、
ウソみたいに静まっている。

凪いだ海のように穏やかな気持ちで、
私は桜の舞いを見つめていた。
祐一「……悩んだ時や、心を落ち着かせたい時、
俺は自然の木々を見るようにしている」
祐一「俺が生まれるずっと前から、
何十年もの時を風雨に晒され続け、
それでも大地に根付き続ける力強さ――」
祐一「その姿を見ていると、
自分の悩みが小さいものに思えてくるんだ」
祐一「……人の感情や思惑に流されることなく、
ありのままに生きることは難しい」
祐一「だからこそ、ありのままで生きる草木を
見ると、心が落ち着くのかもしれない」
珠紀(ありのまま……)

卓「良かった。目が覚めたんですね」
珠紀「……卓さん。
ごめんなさい」
私は目を伏せる。
卓「いいえ、謝るのは私の方です」
卓「結界を展開するのが遅かったため、
あなたの体に負荷をかけてしまいました。
これでは守護者失格ですね」
珠紀「そんなことないです!」
珠紀「私、卓さんに注意されていたのに
カミさまの領域に
踏み込もうとしていたんです」
舞を終えて、私のすぐ近くで
カミさまが息を潜めているのがわかった。

黒々とした目が私をじっと見つめ、
声なき声を拾ってしまうことができる
状況に――私は、応えようとしてしまった。

境界線が曖昧なままカミと
意思を交わしてはいけない。
卓さんが私を強く引き止めてくれなかったら、
私はここにいなかっただろう。

ナイフとフォークを手に取り、
テリーヌを食べやすい大きさに切る。
珠紀「……うん、すごく美味しい!」
口の中に入れた瞬間、
ひんやりとした食感が広がる。
慎司「本当ですか!?
良かったあ……」
珠紀「見た目も綺麗だし、
味も抜群に美味しい。
お店で出す料理に負けてないよ」
珠紀「ううん。お店以上の味かもしれない」
慎司「そんな、大げさですよ……」
慎司「ですが、先輩が喜んでくれて良かったです」
珠紀「ここまでしてもらって、
うれしくないわけがないよ」
珠紀「美味しいのは本当だけど、
慎司君が私のために頑張ってくれたのが
嬉しくて仕方ないんだ」

珠紀「な、なんで!?
なんでこんなことになってるの……!?」
私の下には何故か遼がいて。
体勢的に私が遼を
押し倒しているようにしか見えない。
遼「俺の主は意外と大胆だな」
珠紀「ち、ちちち違うの!
わ、私はべつに遼を押し倒すつもりなんて
ぜんぜんなかったの。信じて!」
遼「なら、今の状況をどう説明するんだ?」
珠紀「それは、えーっと……。
不可抗力。そう不可抗力なんだよ!」
遼「おまえの意思で思いっきり
俺を押し倒したのにか?」
珠紀「う……!
押し倒そうとしたんじゃなくて、
押し返そうとしたんだよ……」
遼「ま、口ではなんとでも言えるな」
珠紀「~~~~~」

珠紀「ケテルさん。私……もうケテルさんと
会えないんじゃないかって思ってました」
珠紀「ケテルさんが帰ってくるまで
待つって約束したのに」
珠紀「ケテルさんに会えない寂しさに
押しつぶされそうになってたんです」
珠紀「ケテルさんを一瞬でも信じられなく
なった自分が嫌で、ほんとは
こんなことしてもらう資格なんて……」
最後まで言い終わらないうちに、
額にキスが落とされる。
珠紀「……え?」
ぱちくりと目を瞬かせ、額に落ちた熱に
私の頬がさっきよりも赤く染まっていく。
珠紀「な、な、な、な……」
ケテル「おまえを不安にさせたのは私の責任だ」
ケテル「おまえが一瞬とはいえ、
疑ってしまったのは仕方がないことだ。
それを私は責めようとは思わない」

ケテル「おはよう、珠紀」
珠紀「あ、はい。
おはようございます……」
珠紀「って、そうじゃなくて!
なんでケテルさんが
ここにいるんですか!?」
ケテル「おまえの寝顔を見るために来た。
とても可愛らしい寝顔だったぞ」
珠紀「……!
か、可愛らしいって……」
ケテル「ああ。寝言を言うおまえの姿も、
涎を垂らして気持ち良さそうに
寝ているおまえも、とても可愛らしかった」
珠紀「寝言聞いたんですか!?
私、涎を垂らして寝てたんですか!?」
珠紀「は、恥ずかし過ぎる……!
あ、穴があったら入りたい……!」
ケテル「何を恥ずかしがる必要がある?
私は自然体のおまえも可愛いと思った」
ケテル「だから、隠さずにもっと
おまえの顔を見せてくれ」

凛 「……あなたはとてもかわいらしい人です。
微笑みは陽だまりのように温かい」
凛 「その愛らしい笑顔で、
数多の人々に癒しと安らぎを与えています」
珠紀 「凛君……」
凛君とは思えないセリフに
くらりと眩暈がしたけれど……。

顔を真っ赤にして、ガチガチに
緊張している凛君を見ていると、
頑張ってと応援したくなってしまう。

珠紀 「うわあ、美味しそうだね」
蓋を開けて、感嘆の声をあげる。
目に優しい色合いのお弁当は、見ているだけで
ほっと心を和ませてくれる。
凛 「美鶴様に協力してもらいましたが、
ほとんど1人で作りました」
凛 「ですから、あまり見た目は
よくありませんが……
何度も味見をしたので、味は保証します」
凛 「どうぞ召し上がってください」
珠紀 「ありがとう。
うーん……何から食べようかなあ……」
ふと目に留まったのは
卵とコーンを混ぜて握ってある
色鮮やかなおにぎり。
珠紀 「これからいただこうかな」
少し形は崩れちゃってるけど、
おいしそう。

ひとつ手に取って、口に運ぶ。

凛君は、そんな私の動作ひとつひとつを
緊張した面持ちで見つめていた。
凛 「ど、どうでしょうか……?」
珠紀 「……美味しい!
色も春らしくて鮮やかだし」

慎司 「拓磨先輩、合格おめでとうございます。
僕、真弘先輩の次に拓磨先輩のことが
心配だったので、これで一安心です」
拓磨 「……おい。
おまえ、最近生意気な
発言が多くなったよな」
遼 「はっ、後輩に心配されてやがる。
おまえ、こいつと立場を
交換したほうがいいんじゃねぇか」
拓磨 「……どういう意味だよ」
遼 「直接言わなけりゃわかんねぇのかよ、赤頭。
こんなのと大学も一緒かと
思うとうんざりするぜ」
拓磨 「奇遇だな。おまえと4年間も
一緒だと思うと、俺も頭が痛いぜ」
遼 「4年もおまえの馬鹿面を見なきゃ
ならねぇ俺のほうがよっぽど頭が痛いぜ。
この、脳みそ筋肉バカが」
珠紀 「2人とも、せっかくの宴会なんだから
もっと楽しい話題で盛り上がろうよ」

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