その人は私を見てそれからおもむろに手を伸ばす。

珠紀
「え」

手は私の首筋のすぐ横を通る。
首のあたりを柔らかな空気が撫でて、その感触に体が勝手に緊張する。なんだか息が詰まって、鼓動がはやまる。

珠紀
「あの」

なにを? と言いたいのに口が上手く動かなかった。
その人はまるでなんでもないことのように、じっと私を見ていた。
これが拓磨や真弘先輩だったら、張り倒せる自信があったけど、なんだか、この人にはそういう気持ちが動かなかった。
その人はじっと私を見ていて。
なんだか私は、顔が、赤くなってしまう。

???
「狐邑祐一」

それが彼の名前だと知るのに、数秒かかった。
彼はそれだけ言って、ゆっくりと手を引く。