
瞼の裏に日差しを感じて、うっすらと目を開ける。
カーテン越しの柔らかな光が、寝室に差し込んでいた。
「……もう朝かいな」
さっき寝たばっかりのような気がするんやけどなぁ。
ぱちぱちと何度か目を瞬かせてから、神無に視線を向ける。
「……神無、よう眠っとるな」
神無のちっちゃな口から健やかな寝息が聞こえてきて、熟睡してることがわかった。
いつも俺より先に起きる神無がまだ眠ってるっちゅーことは……、
壁にかけてある時計を見て、合点がいく。
「5時30分、か」
神無が起きるのは6時。
俺が起きんのは7時頃やから、いつもより1時間30分も早い。
「……かわえぇなあ」
俺は再度視線を神無に移し、頬を緩ませる。
すやすやと気持ち良さそうに眠る神無の寝顔がかわいくて、
思わず頬に手を伸ばし――軽くちょんちょんとつついた。
「ん……」
神無が身じろぐ気配に起こしてしまったかと心配したが、
すぐに穏やかな寝息が返ってくる。
「神無……」
頬に置いていた指を髪へと移動させ、ゆっくりとすく。
俺は指の間を通り抜けて行く髪の感触に目を細めた。
「んん……」
神無の鼻にかかった声が聞こえ、慌てて手を引っ込める。
あ、危ない。危ない。つい夢中になってしもうた。
「……これ以上、何かやったらさすがに起きるよな」
神無は覚醒する素振りを見せておる。
もうちょい色々したいところやけど、ここは我慢や……!
「…………キス、したらやっぱあかんよなぁ」
我慢するって誓った直後にキスしたいとか、何を考えとんねん!
自分が呟いた言葉に、俺は心の中で盛大に突っ込みを入れる。
「……このまま神無の顔を見とるのは、危険やな」
俺は神無から視線を外し、一心不乱に違うことを考え始めた。
* * *
「…………」
「………………」
だ、駄目や。
気にせんようにすればするほど、神無のことが気になってしゃあない。
「神無……」
口やなくて、額なら……かまへんよな?
誘惑に負けた俺は神無の額に顔を近づけ、キスを落とす。
そしてゆっくりと顔を離すと、それが合図だったかのように神無の目がうっすらと開いた。
「……?」
神無がパジャマの袖で目元を拭い、目を瞬かせる。
そして――小さく声を上げた。
「み、み、光晴さん……」
「おはよう、神無」
「顔っ、近いです……」
すぐそこにある神無のほほが紅をさしていく。
「な、なにしてたんですか……?」
「神無の寝顔があんまりにも可愛かったから、おはようのちゅーしてたん」
「え……!」
神無はすかさず額に手をあて、恥ずかしそうに俯く。
……あー、そういう反応をされるとまずいなあ。
「なあ、神無」
「な、なんでしょう……?」
「……もう1回、してもええか?」
「……っ」
俺の言葉に、神無は弾かれたように顔を上げる。
「……駄目か?」
真っ直ぐに神無の目を見て、そうお願いする。
神無の戸惑う様子が恥ずかしさからくるものだとわかっとるからこそ、こうやってお願いできるんや。
ほんまに嫌がってたら、するわけがない。
「……は、はい……」
神無が消え入りそうな声でうなずく。
今すぐにでも抱きしめてちゅーしたい衝動を寸前で堪え、俺は神無の頬に手を伸ばした。
そのまますっと身を乗り出し、額にキスを落とす。
そして――。
「おはよう、神無」
再度、朝のあいさつを告げた。
「お、おはようございます……。
あ、あの! ちょ、朝食の支度をしてきます……!」
俺が身を離した瞬間、ベッドから出て行こうとする神無の手を掴んで引き止める。
「まだ時間もあるし、もうちょっとゆっくりせんか?」
「で、でも……」
俺は小さく笑ってから、ベビーベッドを指差す。
そこには、安らかな寝息を立ててぐっすりと眠る我が子の姿があった。
「それに、いつも、ご飯は子供が起きてから作ってるやろ?」
「そ、それは……」
神無は困ったように視線を泳がせる。
……これは後一押しやな。
「な? もうちょっとゆっくりしよ?」
「…………は、はい」
俺の言葉にうなずいて、神無がベッドの中に戻る。
俺はすかさず神無の腰に手を回すと、ぎゅっと抱きしめた。
「……!」
神無は一瞬驚いたような顔を見せたけれど、何も言わず、俺の腕の中に収まる。
そのまま何度か背を撫でていると、神無の口から満足げな吐息が漏れ聞こえた。
「これ、気持ちええの?」
「え、えっと、その……、はい」
「ほんなら、もっとしたるな」
俺は口元に笑みを浮かべ、神無の背を撫で続ける。
しばらくすると、お返しとばかりに、俺の背に回った神無の手がゆっくりと上下に動き始めた。
「俺はせんでもええで」
「あ、あの。光晴さんにも気持ち良くなってほしいから……」
「さよか。おおきに、神無」
「い、いえ……」
俺たちは顔を見合わせて笑う。
そうして、まったりとした時間を心ゆくまで堪能するのやった――。
END