
ソフィア(主人公)
「……ん?」
頭上から、
木が露骨に揺れる音が聞こえた。
まさかと思い、
このあたりで一等高い木を見上げれば……。
???
「はぁ、はぁ……!!
よ、ようやくここまで、のぼれた……!」
???
「待たせてしまってごめんなさい。
もう少し頑張れば、
お母さんのところに帰れますからね」
???
「うん、良い子良い子。
あとは巣に戻すだけだし大丈夫――」
???
「んっ? あ、あれ、届かない。
でも……手を伸ばせばなんとか!
よい、しょ……っと……!!」
???
「! やった!!」
???
「って、え。嘘、折れ……!?」
???
「まずい、落ちる!
う、うわあああああ……!?!?」
ソフィア(主人公)
「……やれやれ」
ソフィア(主人公)
「相変わらず君は、
自分以外の誰かのために
無茶ばかりするな……リズ」
頭上から降ってきた長身を、
躊躇いなく自分の両腕で受け止める。
腕の中をゆっくりと見下ろせば――。
世界中の美を集めて創ったと言っても
過言ではないほどに美しい青年が、
しっかりと収まっていた。

ソフィア(主人公)
「!?」
次第に激しくなる音に、
反射的に窓から距離を取った。
ソフィア(主人公)
「…………」
いつでも対応できるよう、鋭く窓を睨み据える。
ソフィア(主人公)
(宿屋を襲いに来た賊か?)
それなら一応、納得できるのだが、
問題は……。
ソフィア(主人公)
(……ここは、三階だ。
しかも登れるような足場はなかったはず)
ソフィア(主人公)
(賊なら一階や二階を
狙うほうが楽なはずだが、
何故この部屋を……?)
???
「……っと!
あともう少しだ、自分!
ここにきっと彼女が……!!」
思った傍から、
窓が割れる――のではなく。
???
「よし、着いた!!」
妙に爽やかな声と共に――大きく開け放たれた。
???
「……!!
見つけた、ジャンヌ・ダルク!!」
ソフィア(主人公)
「……!?」
窓を開け、
外から飛び込んできたのは、
大きな人影。
もしその相手が、
賊相応に凶悪な顔をしていたら……
私は迷いなく、攻撃していただろう。
???
「ようやく!
ようやくです……!!」
???
「こうして貴女に会える日を、
何度夢に見たか……!」
それをしなかったのは、ひとえに――
侵入してきた青年が私を見て、
心の底から嬉しそうに……。
それこそ、
子供のような笑顔を浮かべていたから。
間違っても人を害する人間ではないと、
ひと目で気づいてしまったのだ。
ソフィア(主人公)
「君は……」

ソフィア(主人公)
「うん、ありがとう。
……ところで、怪我人はいないか?」
村のおばあさん
「ああ、大丈夫だよ。
襲われる寸前に、あの人が
皆を避難させてくれたから」
ソフィア(主人公)
「……あの人?」
???
「ああ。
美しいお嬢さんたち――君たちに、
怪我がなくてよかった」
???
「君たちの命が失われたら、
それこそ世界と僕の損失だ」
村の女性A
「ありがとうございます、神官様。
あなたがいてくれて、
本当に助かりました……!!」
村の女性B
「怪我人が出なかったのは、
ソフィアたちと、
あなたのおかげです……!!」
???
「はは、大袈裟だよ。
僕は何もしてないさ」
???
「……けどまた嘆ク者がやってきたら、
大切な君たちを守るために
全力で戦うと約束する」
???
「その時は――無事を祈り、
純愛の加護を与えてくれるかい?」
???
「君たちの加護があれば、百人力さ」

ソフィア(主人公)
(強い……!!)
リージェネート最強の騎士。
その噂に違わぬ圧倒的な実力を
すぐに理解する。
もしかしたらあのイザークとも
互角以上の戦いができるかもしれない。
???
「やるな!
まさか女にオレの剣を
受け止められるとは……!」
???
「だが、それもここまでだ。
お前に罪はないが、
両国のためにもここで――」
ソフィア(主人公)
「…………く……!」
死んでもらう、と。
確実に騎士は、
そう続けようとしたのだろう。
私もそれに応じ、
剣を弾き返す力を腕に込めるため、
勢いよく顔を上げた。
???
「…………ん?」
???
「…………!!??」
その瞬間、
何故か相手の動きが止まった。
???
「…………」
ソフィア(主人公)
「……?」
???
「う――」
ソフィア(主人公)
「う?」
???
「美しい……」
ソフィア(主人公)
「…………ん?」
ソフィア(主人公)
(……美しい? 何が?)
混乱する私の前で、
騎士は何故か頬を赤く染めた。
???
「……お前が、ジャンヌ・ダルク」
???
「なんということだ。
こんなにも……」
???
「魂を震わせるほど美しく。
オレの剣を受け止められるほど強い女が
存在するとは……」
ソフィア(主人公)
「は? は??」

リージェネート騎士
「ほらお姉さん!
もっとこっちに寄れよ、
何なら膝の上に座ってもいいぜ?」
最悪なことに思った傍から、
騎士が冗談めかして私の腰を更に引く。
レクス・ド・クラーシェル
「………………」
その光景を見た瞬間に、
彼が一歩、破滅の歩みを進めるのを
見逃さなかった。
ソフィア(主人公)
(まずい、本当にまずい!!
どうにかレクスを止めないと……!!)
???
「――うるさい。
静かに酒も飲めねえのか」
金属が重なり合い、
直後に弾ける音が響いた。
一同
「………………」
賑やかだった酒場が、
一瞬にして静寂に包まれる。
リージェネート騎士
「…………!」
私に触れていた騎士が恐る恐る横を見れば、
先程までは何もなかったはずの壁に
見事な穴が空いていた。
当然ながらそんな状況では、
私に触れている場合などではない。
騎士は手を放すと、青年に警戒を向けた。
それは間違いなく
彼がこちらに銃口を向けているからだろう。
???
「…………。
酒場は酒を飲む場であって、
女を拾う場所じゃない」
???
「リージェネートの騎士は、
そんなこともわからねえ
阿呆揃いなのか」
ソフィア(主人公)
(助けられた……わけではないな)
???
「そこの女。あんたもあんただ」
???
「何が目的かは知らねえが、
男をたらしこみたいなら他所でやれ。
……酒が不味くなる」
……助けるのが目的なら、
こんなにも蔑むような視線を
向けてくるわけがない。
ソフィア(主人公)
「……すまない。
そんなつもりはなかったんだが、
今後は気をつけよう」

???
「やあ、当代のジャンヌ・ダルク。
こうして君をわたしの世界に招待するのは
3ヶ月ぶりかな?」
ソフィア(主人公)
「………………」
聞こえてきた穏やかな声に
思いっきり顰め面をしながら振り返れば……。
???
「――God、只今降臨!
ほらしっかり崇めて、拍手拍手!!」
無意味に神々しい光を放つ青年が
目の前に姿を現した。
自分が高位の存在だと
主張するように決められたポーズは
明らかに大仰だ。
だがかなり腹の立つことに、
その自信に説得力を持たせられるほどの
人ならざる美貌を宿している。
ソフィア(主人公)
「……出たな、不審者」
God
「おっと。幼い頃から
君の人生を見守るGodに向かって
随分とつれないね」
God
「はあ、悲しいよ。
昔の君はそれこそ本当に愛らし……くはなかったなぁ、
うん……」
God
「昔から定期的にわたしをしばき倒しては、
今みたいな冷めた目を向けてきたし……」
ソフィア(主人公)
「お前が『一発芸を今すぐして』とか、
しょうもない理由で私の夢枕に
立ったりするからだ」
ソフィア(主人公)
「一回それで寝不足になって、
修行中に死にかけたことがあるんだぞ。
……あの恨みは未だに忘れていない」
God
「ははは、別にいいじゃないか。
あの程度で死ぬほど君は可愛くないだろう?
そこらの荒くれ馬より丈夫なんだし」
ソフィア(主人公)
「言った傍から、しばくぞ」

ソフィア(主人公)
「――素晴らしい、完璧だ。
よくここまで持ち堪え生き延びてくれた、
勇敢なる兵士諸君」
瞼を開けば、
自分たちを守るように立つ
複数の人影があった。
地面の崩壊は兵士のいる場所を避けており、
それはまるで、あの一撃を目の前にいる人間が
弾いたかのような光景。
いや、実際にそうなのだろう。
ソフィア(主人公)
「あとは私たちに任せろ」
でなければ、こんなにも自信に満ち溢れた声が出せるものか。
ソフィア(主人公)
「さて、状況は把握した」
その集団の先頭に立つのは、一人の女性。
彼女は目の前の災厄に対して、不敵に笑った。









