アラン・メルヴィル
「ほら。ファーストバイトの続きをしよう」
ヒロイン
「あの、ファーストバイトって、一回だけで良かったと思うんだけど……」
アラン・メルヴィル
「でも、まだまだ食べたりないだろ? それに、写真だけじゃなくて動画でも残しておきたいし」
スマホの録画ボタンを押した後、指先でクリームをすくって、彼は、舐めてというように私の口元に差し出した。
ヒロイン
「ん……。そんなふうにしたら、食べられない……」
アラン・メルヴィル
「大丈夫。……ほら、食べて?」
口に指を差し入れられて、私は抗えずに彼の指を舐めていく。
口の中に入った甘すぎる生クリームの味に、頭の中がふわふわした。
アラン・メルヴィル
「美味しい?」
ヒロイン
「美味しい、けど……。もっとゆっくり、食べようと思ってたのに――」
コーヒーを入れて、お皿に載せてべるつもりだったケーキ。
それを、私たちはいけない方法で食べている。
しかも動画に収められているのだ。
アラン・メルヴィル
「そうだね。ゆっくり食べようか。俺もこうしてじっくりと――味わうよ」
ヒロイン
(そういう意味じゃないのに……!)
悪魔みたいに笑って、アランがまた、私の唇についた生クリームを舐め取っていく。
アラン・メルヴィル
「確か、ファーストバイトには、『一生食べる物に困らせない』って意味があるんだろ?」
ヒロイン
「そういえば……CC.にいた頃、セミナーでそう聞いた気はするけど……」
一生食べる物には困らせない。
一生、美味しい物を作ってあげたい。
確か、そんな意味合いがあった気がする。
そしてケーキの大きさは――愛情の大きさだ、なんて言う人もいた。
ヒロイン
(もしかしてアランは、それでこんなに大きなケーキを作ってくれたのかな……)
アラン・メルヴィル
「ほら。もう一口」
ヒロイン
「うん。……ん、甘い……」
アラン・メルヴィル
「俺にもくれる?」
ヒロイン
「うん。……食べて」