ヒロイン
「じゃあ、いただきまーす!」
ラウル・アコニット
「いっただっきまーす!」
二人で手に持って、一緒にドーナツを頬張る。
ふわふわで、甘くコーティングされた味が口いっぱいに広がって、私たちは揃って目を輝かせた。
ヒロイン
「んー! 美味しい!」
ラウル・アコニット
「やっぱり4つ買って正解だよー!
あむ……うん、美味しい!」
ヒロイン
「こっちのシナモンシュガーも、すっごく美味しいわ。
上品な味で、いくらでも食べられちゃいそう」
ラウル・アコニット
「へぇ……実はそれも気になってたんだよね。
一口、もらってもいい?」
ヒロイン
「ええ、もちろんよ。
じゃあ今分けるから――」
ラウル・アコニット
「ありがとー! あむっ」
私が食べている最中のドーナツを、ラウルが横からかじる。
頬に触れた彼の髪の感触に、私は慌てた。
主に、誰かが見ていないかが気になって。
ヒロイン
(だ、大丈夫だよね。
ここ窓際の隅っこ席だし……)
ラウル・アコニット
「あ。口元にシナモンシュガーが、ついてるよ。
ん――」
ヒロイン
「……! ちょ、ちょっとラウル……!?」
ラウル・アコニット
「あはは。なーに?」
ヒロイン
(なーにって……)
家でならいいけれど、ここは外で、ドーナツ屋だ。
ラウルのファンが見てたら、大変な事になっちゃうのに。
ラウル・アコニット
「大丈夫。オレたちは、本物のカップルだもん。
悪い事はしてないよ」
私が考えていたことが伝わったのか、ラウルが余裕の眼差しで微笑む。
ヒロイン
「でも、マネージャーさんに、怒られちゃうかも……」
ラウル・アコニット
「オレ、怒られるの別に嫌じゃないよ?
それに……オレは、既成事実をもっと作っちゃいたいな」
珍しく、ラウルが悪い顔をして笑う。
前にスパイ物の映画で、彼が悪役をしていた時と同じ顔で。
素直で、人懐っこくて、可愛い雰囲気のラウル・アコニット。
でも彼はこんな顔だって出来るんだ。