「む……もう、朝か。おはよう。
目が覚めて、いちばんに見られるのがそなたの顔とは、この上ない幸せだな」
規則的に鳴り響く目覚まし時計の音に導かれ、瞼を押し上げる。すぐ視界に映った彼女に微笑んで告げると、恥ずかしげな笑みが返って来た。
「……おはよう。私も同じことを思ったわ。なんだか贅沢だなって」
「ふふ、そうか」
同じ想いを抱いている事実も、喜びとなって心を満たす。
ふと、彼女が腕を伸ばしてアラームの音を止め――なぜか、まじまじと時計を見つめていた。
「これ……時計、壊れてないわよね? 時間がいつもより早いわ」
「ああ。私が設定を変えておいたのだ」
首を傾げる彼女の仕草に愛しさを募らせながら、その腕を軽く引っ張り、ベッドに再び横たわらせる。
「この時計はアラームを2回設定できる。1回目はいつも起きる時刻より少しだけ早く、2回目は身支度をしなければならないギリギリの時刻に設定しておいた」
「?? どうして?」
「……こうして、そなたと過ごす朝をもう少しゆっくり感じたいと思ってな」
言葉と共に彼女の頬をするりと撫でる。納得したのか苦笑を刻んだ彼女が、頬に触れた手に手を重ねてくれた。
「ふふ、ベッドから離れがたくなっちゃいそうね」
幸せそうに彼女が笑う。それだけで今日という一日がまた、かけがえのないものになるのを感じた。