秋月栄次郎
「帝は容保様を、会津を信じて頼り
思いを預けてくださった」

当時の帝、孝明天皇はその後まもなく
病に臥せって身罷られた。

それでも、会津はずっと忠義に従い
京の治安維持を続けてきたのだ。

秋月栄次郎
「だからまぁ……
急にお役御免となるのはね」
神崎宗十郎
「あんたが今気に病んでも詮無いことだ」

神崎さんが秋月さんへお酌をする。
秋月さんはぐいっとお酒をあおった。

神崎宗十郎
「その調子だ、もう一杯」
秋月栄次郎
「宗十郎も」

お互いにお酒を飲み交わすふたりの様子は
付き合いの長さを窺わせる。

秋月栄次郎
「……これからのことは
明日以降も話す機会があるだろう」
秋月栄次郎
「今日くらいは、いっそ忘れて
楽しいことでも話そうか」
秋月栄次郎
「君は
宗十郎の訓練について行ってるんだろう?」
秋月栄次郎
「ちゃんと教えてもらえたかい?」
佐野ゆずりは
「はい。あ、いえ――
教えてくれるということはないですが
見るだけでも参考になります」
佐野ゆずりは
「足場の悪い河原を走って、
それから山を駆けあがって……」
佐野ゆずりは
「神崎さんすごい速さだから
いつも途中で見失ってしまいますけど、
いい鍛錬になっています」
秋月栄次郎
「やっぱり素っ気ないのか。
宗十郎、お手柔らかに頼むよ」
神崎宗十郎
「そこまでは付き合えない」

ぼやいた口に漬物を放り込む。

お酒が入っているせいか、
いつもより少しだけとっつきやすい雰囲気だ。