このあとは学生同士で切腹人と介錯人に分かれ、
一通りの流れをおさらいすることになる。

佐野ゆずりは
「……」

ふと息苦しさを覚えた。
緊張で呼吸が浅くなってしまう。

飯山貞吉
「怖いですか? 切腹」
石谷虎之助
「佐野さんは、介錯人をお願いします。
切腹人は私と貞吉でやりましょう」

虎之助君の提案に頷き返す。

私の緊張を察してくれたのだろう。

介錯人の使う刀代わりの木太刀を受け取り、
虎之助君と貞吉君の背後に控えた。

二人は指南役に教わったとおりに、
厳かな所作で切腹の演習をする。

ふと見渡すと、道場にいる少年たちの半数が
同様に腹を切る所作をとっていた。

みんな真剣な表情で取り組んでいる。

佐野ゆずりは
(当然だ……
武士にとっては名誉のある死にかたなのだから)
佐野ゆずりは
(でも――私にはそう思えない)
佐野ゆずりは
(名誉のために死ぬよりも、
生き抜いてほしい……)

これは、死ぬための練習じゃないか。
そう意識すると、抵抗感が強くなる。

佐野ゆずりは
(ううん、ただの練習だ。大丈夫……)

分かっているけれど、
不吉な光景が重なってしまって
背中に冷たい汗が伝い落ちる。

佐野ゆずりは
(兄上も、こうして練習したのかな)
佐野ゆずりは
(教師になってからは、
今度は少年たちに作法を教えたりして……)
佐野ゆずりは
(その結果として――
京でも迷わずに腹を切ったの?)

戦場には、介錯人などいたのだろうか。

兄上の最期は、
どれだけの苦痛を伴うものだったのか。

どれほどの覚悟で行ったものだったのか。

佐野ゆずりは
(兄上……)

次第に息が苦しくなって、
目の前が暗くなっていった。