水鏡星絆・天編
前日譚Short Story【心残りを抱いて】

道行く人たちの装いが変わりはじめ、季節の移ろいを感じる秋。
僕は香羊と2人で、いつものように星を眺めていた。

「クリスマスは、彼女とイルミネーションでも見に行こうかな♪」
「……あのさあ。それよりも成仏すること考えて」
「ああ……うん……」

成仏……か。

「アイドルの……S=CROWNのSENAでいたいって気持ち、消えない?」

S=CROWN……

「……それもあるけど、それだけじゃなくてさ……」

香羊は詳しくは聞かず、「そう」とだけ言った。
……彼のこういうところ、安心するなあ。
僕のペースに合わせてくれるこの親友に、これまで何度救われたことか。

「戻った後も、ここに来るから」
「え……?」
「星空観賞会。俺が身体に戻った後もするって言ってんの」
「!」
「成仏する気持ちがないなら、とことん付き合う。
だから、悪霊化すんなよ」
「うん……、うん! わかったよ!」
「ってか……あの人は大丈夫なの?」

……僕と同じ死者である彼女もまた、心残りを抱えている。
彼女はあまり口に出さないけど、きっと家族のこと……。
詳しく聞きたい気持ちはあるけど、それは出来ない。
だって、彼女の心が壊れてしまうかもしれないから。
心が壊れる時は一瞬だって、僕は知ってるから……。

「彼女は僕が支えるから、安心して」

香羊が僕にしてくれているように、優しく寄り添っていきたい。
彼女のペースに合わせて……。