伊音響・天編
前日譚Short Story【2人の世界】

彼女と恋人として過ごすようになってから、2ヶ月――。
来月、成海ヶ浜高校は冬休みに入る……。
冬休み中、僕は彼女の瞳から消える……。
そんなのは悲しいし、寂しい――

「響」
「っ!」

顔を上げると、僕の様子を見にきたのか、大看守さまが目の前にいた。

「その表情……悩みがあるようですね」
「あ……えっと……」
「恋愛に悩み、心を痛める……
はあ、なんと羨ましい事か」
「ど、どうしてわかるんですか!?」
「ふふっ。当たり前です。
私は、恋愛プロフェッショナルなのですよ?」

……そうだ、恋愛プロフェッショナルの大看守さまなら!

「あの、僕の相談にのってくれませんか!」
「よろしいでしょう。
そのセンチメンタルな悩みを打ち明けてみなさい」
「ありがとうございますっ!
えっと、僕の悩みは……
冬休み中、学校が閉まってしまうので
彼女に会えなくなっちゃうなって……」
「鏡から出て、彼女に会いに行けばいいでしょう?」
「それはそうなんですけど……
僕は彼女を感じられますが、彼女はそうじゃないから……」
「ふむ。彼女にも自分を感じてほしい、と」
「はい。この鏡の世界でないと、僕たちはお互いを感じられませんから……」

――あ。鏡の世界が他にもあれば……。

「あの……大看守さま。
この鏡をもうひとつ作ってもらうことはできませんか……?
【彼女が学校に居ずとも会える鏡】を」
「…………」

この世界があれば、彼女の瞳に映っていられる。
この世界があれば、彼女と愛し合える。
この世界があれば、彼女が亡くなるまで、ずっと……。