天堂紅華・天編
前日譚Short Story【全てを求めて】

あの神隠しの中、彼女が亡くなって――。
現世に帰ってきた俺たちは、心残りを解消するため、日々を過ごしている。

「紅華さん。雛菊さんのところへ行くなら、私も一緒に行きます」
「ああ。ありがとう」

彼女は、いつもこうして俺に寄り添ってくれている。
だが、俺は……

「……今日も家族の様子を見に行くんだろう?
俺も一緒に行って構わないか?」
「……心配してくれて、ありがとうございます。
でも、私の家族のことなら大丈夫ですよ。
それよりも今は、雛菊さんです」
「…………」

……断られたのは、これで何度目だろう。
彼女が抱えているものを共に背負いたいのに、そうさせてくれない。

「……俺は、頼りないか?」
「え……」
「すまない。今のは忘れてくれ」
「…………」

彼女を愛するあまり、全てを共有したいと思ってしまう。
喜びも、悲しみも、本当に全てを……。

「……紅華さんほど頼りになる人はいないです」
「っ……、本当か?」
「はい」

彼女の言葉ひとつで、心が温かくなっていく。

「それなら……何かあれば、言ってきてくれ。いいな?」
「はい。ありがとうございます」
「俺に1番に言うんだぞ?」
「ふふっ。もちろんです」

……きっと、大丈夫。
2人、共にいれば……いつか、光りは差すと信じて――。