電撃Girl'sStyle 12月号(11/10発売)に
掲載されたSSのWeb限定アフターストーリー

「手のぬくもり」

 翌朝も同じ生活が始まった。朝9時に起床し着替えの儀に礼拝、そして……

「昨日はありがとう御座いました。お陰で食欲が出ました」
「それは何よりだ」

 王太子妃の方を見向きもしない。昨日の出来事がまるで嘘の様だ。気持ちがほぐれてからはよく話し、今まで食べていなかった分を取り戻すかの様によく食べた。
 帰りの馬車は行きとは違い、話題が尽きない程だったというのに(正確には話題が尽きなかったのはリーゼだけだが)、横に居る夫はまるで昨日の事などなかったかの様な振る舞いだ。そしていつもの様に無言で食事を済ませると席を立ち、妻に挨拶をする事なく立ち去る。
それでもリーゼは満足していた。自分を気に掛けてくれている人が居る事が分かったからだ。しかし王太子が気に掛けているのはマリー・アントワネット王太子妃であり、リーゼではない。

 食事を終え部屋を出ると、昨日と同じ様に王太子が立って居た。

「そなたを待っていた」

 また何処かへ連れていくのだろうか?しかしこの人に何処へ行くのかと聞いても、答えない事は分かっていた。
彼はリーゼの手を取る。

「昨日よりは温かくなっているようだ」
「ご心配をお掛けしました。もう大丈夫ですから……」

 そう言って手を離そうとするが掴んだ手を離さない。そして昨日と同じ様にまた何処かへ連れていく。

この手がマリー・アントワネットだと思われていても、繋がっているのは“自分”なのだと思いたかった。……今王太子の手のぬくもりを感じているのはリーゼなのだから。

~Fin~



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