『我来也と夢』

我来也「むにゃむにゃ、うーんうーん」

かえで「――らいやくん」


――――ゆさゆさ


我来也「うーん、うーん……、こんな未来は嫌なんだぞ……」

かえで「我来也君」


――――ゆさゆさ


我来也「!?」


――――がばっ


かえで「起きた? 我来也く――」

我来也「――かえで!? どうしてここに……!」

かえで「え? 私の用事が終わったら書物室で会おうって約束したよね」

我来也「そ、そうか、そういえば、そうだったな」

我来也「なにせ――――僕とお前は、恋人同士なんだものな」

かえで「!」

我来也「……そうだろう? かえで」

かえで「そ、そうだけど、急にそんなこと言われたら照れちゃうよ……!」

我来也「ふふ、そうだな。うん。
    ……あれは夢で、現実のかえでは僕の恋人、か」

我来也「…………すごく、ほっとしたんだぞ…………!」

かえで「でも心配しちゃった。
    この小部屋に来たら我来也君が寝ながらうなされてたから」

我来也「それで起こしてくれたのか……。
    ……その、悪かった」

かえで「我来也君、なんだか顔が赤いよ? もしかして熱でうなされてた?」

我来也「な!
    ちちちちがう、これは単にお前が僕を心配してくれたのが嬉しかっただけで――」

かえで「嬉しい?」

我来也「はっ!!
    い、いや、我は常に孤高の竜王!」

かえで「!」

我来也「悪夢さえも夢魔を疲弊させ調伏させるための一手段に過ぎず
    魔女の鍋より生まれいでし妙薬さえあれば憂いなどなく――」

かえで「……我来也君」

我来也「かえで? どうして眉間に皺なんて……」

かえで「我来也君はもう一人じゃない。
    心配するのは当然だし、孤高なんて言い方もしてほしくないよ。
    ……恋人、でしょ?」

我来也「――!」

かえで「だから、嬉しかったなら喜んでくれると私も嬉しいな」

我来也「……そう、か。そうだったな――」

かえで「我来也君?」

我来也「僕は、馬鹿だな」

かえで「我来也君、どうしたの?」

我来也「いや――。
    ……実は夢の中で、僕はお前の愛情を確かめたくて謎の箱を使っていたんだ。
    誰が一番お前に愛されてるか、なんてことを調べるために」

かえで「な、謎の箱???」

我来也「お前に一番に愛されたくて、不安になって、わがままを言った。
    ほかのやつらに負けたくなくて必死になって。
    その気持ちはたしかに本当だけど――……
    ――お前はこんなにも僕のことを想ってくれているのに不安になるなんて、僕は本当に馬鹿だ」

我来也「なぁ、かえで」

かえで「うん?」

我来也「お前がそう言ってくれるなら、僕は素直になることにしよう。
    だから――」

我来也「――お前が心配してくれて嬉しいんだぞっ。
    でも安心しろ、ちょっと夢見が悪かっただけで僕は元気だからな!」

かえで「ふふ、それなら良かった!」

我来也「ところで、かえで。お前の用事とは何だったのだ?」

かえで「あ、実はね――」


――――ごそごそ


かえで「――これを作ってたの」

我来也「これは、まさか――……花火!?」

かえで「そう、線香花火だよ。
    忍者の修業で使う火薬でも作れるって聞いて
    加藤先生に習ってたんだ」

我来也「なるほど、たしかに火薬は忍者に必要不可欠なもの。
    色々な使い方ができるようになって損は無いな。
    さすが、僕の恋人は真面目だな。よしよし」


――――ふわふわ、なでなで


かえで「わっ、我来也君、頭を撫でられるとか恥ずかしいよ!?」

我来也「照れなくてもいいじゃないか。
    お前に甘えることが多いかもしれないけど、僕は年上なんだぞ?
    ……たまには、お前のことを甘やかしたい」

かえで「――!」

我来也「僕とお前は恋人同士なんだから、これくらい普通だろう」

かえで「そうかもしれないけど、ここは修練院だし……!」

我来也「じゃあどこならいいんだ?
    ……僕はいつも、お前に触れていたい。
    お前は違うのか――……?」

かえで「と、とにかく!」

我来也「あ、逃げるなんてずるいんだぞっ」

かえで「ずるくないです!
    我来也君のほうがずるいよ、急に格好良くなるなんて……!」

我来也「ふふ、お前に格好いいって言われるのは嬉しいな。
    まあなにせ、我の齢は十八だからな!」

かえで「とにかく、そもそも誉めてもらえるようなことはしてないんだよ。
    この線香花火は修業のために作ったわけじゃないから、
    真面目でも何でもないし」

我来也「そうなのか? 珍しいな、お前が修業以外のことにやる気を出すなんて。
    じゃあ、何のためだ?」

かえで「実は……」

我来也「うん?」

かえで「……我来也君、一緒にどうかな、って思って」

我来也「!!」

かえで「夏祭りのときにずいぶん喜んでくれたでしょ?
    だから、花火も喜んでくれないかなって思ったんだ。
    ……どうかな?」

我来也「どうもなにも――……」

かえで「……?」

我来也「――――そんなの、嬉しすぎるんだぞ――――!!」


――――ぎゅっ!


かえで「が、我来也君!」

我来也「僕のために線香花火を作ってくれるなんて、嬉しいに決まってるだろうっ。
    さぁやろう、今日やろう、今すぐやるんだぞ!
    花火を遠くから見たことはあるが、線香花火は初めてだ!!」

かえで「線香花火、したことないの?」

我来也「ああ、そういう遊びが許される状況じゃなかったからな」

かえで「我来也君――」

我来也「でも」

かえで「!」

我来也「初めてがお前と一緒なんて最高なんだぞ!」

かえで「……うん、そうだね。
    私も、我来也君と一緒にできて嬉しい。
    昔、両親がいたころにして以来だもの」

我来也「そうか、なら、一緒だな!」

かえで「うん! 楽しもう――――」


 ・
 ・
 ・


――――ぱちぱち、ぱちぱち


我来也「……綺麗だな」

かえで「うん、綺麗だね」

我来也「こんな風に繊細な光を放つものだなんて知らなかった……」

かえで「ふふ、うまく作れて良かったよ。
    ――そういえば、知ってる?
    線香花火のこの……雫みたいな火の珠が落ちなかったら願いが叶うんだって」

我来也「そんな言い伝えがあるのか?」

かえで「おまじないかな。女の子たちが話してるのを聞いたんだ。
    それでね、とっさに思いうかんだのが我来也君のことだったの」

我来也「……え?」

かえで「私がお願いごとをするなら、我来也君の幸せかなって思って」

我来也「どうして……」

かえで「……我来也君のことが好きで、大切だから。
    幸せになってほしい、一番のひとなの」

我来也「かえで――……!」


――――ぽとん


かえで「あっ、残念、珠が落ちちゃった……」

我来也「――かまわない」

かえで「我来也君?」

我来也「だって、僕はとっくに幸せだ。
    ……お前が、こうして恋人として隣にいてくれるんだから……!」

かえで「!」

我来也「好きだ」

かえで「我来也君、あの」

我来也「お前と一緒にいるのが僕の幸せなんだ。
    だから、ずっと僕と一緒にいてほしい。そして――」

我来也「お前の願いは、僕が叶えてやる」


――――ちゅ


かえで「……!」

我来也「ありがとう、かえで」

かえで「……私も。ありがとう、我来也君――」

我来也「そういえば、てっきりお前なら勇士隊に入るのが願い事だと思ったんだが」

かえで「もちろん勇士隊に入って人を助ける忍者になるのは夢だよ。
    でもそれは自分の力で叶えてみせる。
    我来也君にだって、試合になったら勝ってみせるからね!」

我来也「ふふ、そうか、楽しみだな。
    僕もお前には全力で相手をすることにしよう。
    僕が勝ったら、そうだな――――」

我来也「――――来年は、一緒に線香花火を作るんだぞ!」


*****


かえで「ちなみに我来也君、さっきの夢の話って――」

我来也「ああ、あれなら問題ない。
    夢魔が異次元回廊の向こう側にいる奴らを呼び寄せて争わせたんだろう。
    きっと今頃、皆もそれぞれの恋人と一緒にいるはずだ」

かえで「???」
♥♥♥おまけ♥♥♥