「みんな、お待たせ……って、あら?」

 関定に頼まれてケーキを運んできた関羽は、誰もいない部屋を見て首を傾げた。

「たしか、みんな揃ったから一緒に食べるって話だったのに」

 そういえば、先ほど廊下の方が騒がしかった気がする。
 もしかすると待ちきれずに厨房へ向かっていたところと行き違いになったのかもしれない。

「ここで待っていた方がいいかしら……」

 ケーキを置きながらつぶやいた時、卓の上にお菓子の板が見えた。

『いつもありがとう。これからもよろしくね』
『姉貴の料……、すげー好……からこれ……たくさん食わ……くれよ!』
『食べさせてもらうのもいいが、俺はお前に食べさせたい』
『関羽よ。お前のことを考えぬ日は一日たりともない……』
『勝負しろ! 話はそれからだ』
『私にも是非作り方を教えてください。そして、今度は一緒に作りましょう』
『感謝』
『祝結婚! 周瑜・関羽』

「これって……ふふっ!」

 溶けかけているけれど、何とか読める想いの数々。
 それを見て、関羽は嬉しさのあまり破顔した。

「こっちが劉備で……きっとこれは張飛ね。この細かい文字は……曹操かしら?」

 眺めているだけで幸せな気持ちになる。
 一つ一つを読みながら、関羽は彼らの顔を思い浮かべた。

「……よし! それじゃあみんなが帰ってくるまでに切り分けておこうかしら」

 そこにはそれぞれのお菓子の板も付けて、お茶もちゃんと用意しよう。
 きっと楽しい時間が待っている。
 まだ見ぬ幸せな光景を思い浮かべながら、関羽はケーキを分け始めたのだった。